第9話 合宿二日目

 とりあえずお腹が空いていたので、クロに頼んで軽食を用意してもらった。

 サンドイッチを頬張りながら計画を思案する。その際、クロから詳しい話を聞いておいた。


 主人たるもの客人に最高のをしなくてはならないのだ!


 ルートは二つある。

 師匠とツヴェルフさんが同室。アリシア先輩と散華ちゃんが同室だからだ。

 師匠とツヴェルフさんは姉妹のような関係。二人とも教授の娘のような存在だ。

 アリシア先輩と散華ちゃんは以前からのパーティーメンバーだ。

 宿屋ではないので寝台ベッドの数は一部屋に一台だ。


「両方攻略と行きたいところではあるが……」


 残念ながら師匠は私より格段に強い。それはこの間、身をもって知らされたばかりだ。しかも今日は今まで眠らされた。

 ツヴェルフさんは未知数だ。この間パーティー入りしたばかりでまだ一緒に戦闘していない。


「やはりそちらは後回しか……まだ一日目だ。時間はまだある。その間に隙をみつけるのだ」


 となると狙いは散華ちゃんと先輩の部屋だ。

 とは言っても散華ちゃんは武術の達人で学生筆頭でもある。

 アリシア先輩もあまり本気を出さないが実力は折り紙付き。

 さらに耳が良いのが気がかりだ。油断はできない。


 ともかく先ずは偵察だ。

 時間は深夜。起きているか、寝ているかで次の行動は変わってくる。

 私は魔石灯ランプを手に取る。


「いざ出陣ッ!」

「本当に行くのかニャ? どうなっても知らないニャ。クロは先に寝かせてもらうニャ……」

「うむ。そうしてくれ」


 クロはそのまま私の部屋で寝る。クロの部屋は師匠たちが使っているからだ。

 クロは明日も仕事がある。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


 私はそっと部屋を出た。

 抜き足、差し足、忍び足……

 そうした行動に次第に興奮が高まって来る。


「ふはは。さすがは闇の王。我は今、闇と同化しているっ!」


 思わず興奮を声に出してしまった。

 ふぅ、気づかれなかった様だな。


 すると背後から……


「ソニア?」


「馬鹿な! 闇の王の背後を取っただと? 何奴!?」


 後ろを振り返るとアリシア先輩がいた。


「もう、ソニア。ビックリさせないでよ。不審者かと思ったじゃない。危うく攻撃する所だったわ。何してるの?」


 まずい! 何とか誤魔化すのだ!


「すいません。ちょっと夜を堪能たんのうしてました。先輩は何を?」

「そ、そう。……変わった趣味を持ってるのね。私は星を見ていたのよ」


 なんだと!


「それは私も見たかった! むしろ夜空の星を見るエルフ美少女を見たかった!」


 なんという幻想的光景!


「? よくわからないけど、いつでも付き合ってあげるわよ」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、私は寝るわ。ソニアも早く寝なさい」

「はい。おやすみなさい」


 ふとそこで思う。

 先輩をこのまま部屋へ帰してしまっていいのか?

 今、散華ちゃんは一人のはずだ。先輩が部屋に戻ると格段に難易度が上がってしまう。


 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。


 つまり先輩をこちら側へ抱き込むのだ。

 勝算はある!

 この人、何だかんだで面白いことが好きだしな。


「あっ、先輩待ってください。ちょっと相談があるのですが……」

 

 

 結果として説得は成功した。先輩にはバックアップをお願いした。

 そして私達は今部屋の前に来ている。

 先輩が耳をそばだてる。それから手で合図を送ってくれる。そしてGOサインが出た。

 私は頷くとそっと扉を開いて滑り込む様に侵入した。


 散華ちゃんが寝ている。一人だ。

 私は転がるように布団に潜り込む。

 隣には散華ちゃん。心臓がバクバク言っている。


「まさかここまで上手くいくとはやはり我は闇の王」


 まだだ。

 まだここからだ。

 隣の散華ちゃんをじっと観察する。起こさない様に。

 綺麗なショートの黒髪。端整な顔立ち。


「ん……ショートの黒髪? いつの間に髪を切ったんだ?」


 よく見ると。って師匠じゃないか!


 そのとき目が合った。


「こういう事ですか……嫌な予感がするから部屋を代わってほしいと言われたときにはどういう事かと思っていたのですが……何をしているんですかソニア?」


 誤魔化さねば!


「忍者ごっこを……」

「そうですか」


 あ、これ無理なやつだ。罠にかかったのは私の方かっ!


「おのれ、謀ったな散華ちゃん!……いや、この際、師匠でもッ!」


 私は素早くエロ下着を取り出す。


「甘いですよ。眠れスリープ!」


 あっ、今わかった。無詠唱だ。と思った時には眠りに落ちていた。

 手にはエロ下着を握りしめて……


「まったく……何をしようとしていたのでしょう? 眠っている姿は可愛いのですが……」


 先輩はいつの間にか撤退していた。



 †



 ハッとして目が覚める。

 朝になっていた。窓から差し込む朝日が眩しい。

 寝すぎで逆に体がだるい。


「何という事だ。丸一日眠ってしまった。痛恨の失態!」

 

 私は絶望していた。

 この世に希望なんてありゃしねえ!


 隣で音がする。


「あ、師匠おはようございま……」


 私は口をあんぐりとさせていた。


 女神がいる!

 しかも付けているのは私の用意したエロ下着。


「あら、起きましたね。どうしたのですか? 見たかったのでしょう?」


「……美しい」


 私はまじまじと見つめた。

 頭が混乱している。


 どういう事だ? これは夢か?

 それに何だ? あのエロ下着が美しいだと!

 窓から差し込む柔らかい朝日が彼女を照らし出している。

 それはまさに女神!

 神界の光景だった。


「流石にじっと見つめられると照れますね」


 ちょっと恥ずかしそうにしている女神。

 あ、鼻血出そう。


「どうして?」

「この間は頑張りましたからね。ちょっとしたご褒美ですよ」

「うわあああん! 師匠……一生ついて行きます!!」


 私は感涙にむせびながら、あわよくばと飛びつく。がかわされる。

 彼女は笑顔で。


「はい。ここまでです。私だって恥ずかしいんですからね!」


 おうふ、これは惚れる!

 ありがとうございます!


 師匠は修道服を着てしまった。

 私はまだ呆然としている。

 あまりにも突然すぎたからだ。

 とりあえず思ったことを口にしてみる。


「あの修道服の下には、あのエロ下着を着ているんだぜ?」

 

 師匠の笑顔が凍り付いた。


「もうしばらく眠りたいようですね?」

「ごめんなさい。冗談です。勘弁してください。寝すぎて辛いです」

「そうですね。これ以上はやめておきましょうか」


 助かった……


 その後皆で朝食を取りながら、今日の計画を練った。決まったのは午前中はミーティング。午後は皆で買い物の予定だ。


 ミーティングではフォーメーションを考えた。

 前衛は散華ちゃん、ツヴェルフさん。中衛は私、後衛は先輩、師匠。

 先輩と師匠を後衛にしたのは回復魔法の使い手だからだ。

 ツヴェルフさんはあまり魔法が得意ではないらしい。

 とりあえずこれで仮決定だ。上手くいかなかったら直すということになった。

 残った時間は午後の買い物について話した。基本的には装備品を見て回る予定だ。


 昼食を終えると皆で街へ出た。

 武器屋、防具屋、魔導具店、服飾店などを回りどのようなものがあるのか見て回った。

 途中軽食を取りながら何が必要か話し合う。

 武器、防具などはそれなりのお値段だ。おいそれとは買い換える事はできない。

 結果、この日は見るだけになった。それでも皆と回るのは楽しかった。



 †



 二日目夜。

 さあ来ましたよ! 闇の王の時間が!

 深夜。皆が寝静まった頃。

 そっとベッドを抜け出す。そして向かったのは中庭。


 エルフ美少女は星を見上げていました。

 その幻想的光景に目を奪われます。

 私はアリシア先輩にあるお願いをしてありました。


「ここで脱ぐの?」

「はい。お願いします」

「鬼畜ね」

「嫌いですか?」

「べ、別に……」


 彼女は恥ずかしそうに目を逸らすと服を脱ぎました。

 月光の下、彼女の裸身が晒されます。

 着ているのは私の用意したエロ下着のはずです。

 師匠もでしたが、彼女も何故か美しくみえます。

 エロ下着のはずなのに!


 星空の下、彼女はまさしく妖精でした。


「美しい……これが妖精か」


 ですがこれは罰なのです。


 こやつは昨夜、私を置いて逃げたのです!


 じっと彼女の目を見つめます。自分の罪を認めさせ、反省を促すのです。

 彼女が目を逸らしました。


 私は彼女の顎に手をやり私の目を見つめさせます。

 顎クイです。私は本の知識でそれを知っています。

 彼女は恥ずかしがって言いました。


「もういいでしょ? これ以上は冷えてしまうわ」


 私は彼女に優しくローブを羽織らせてあげます。


「私が隣で温めましょうか?」

「……要らないわよ」


 これ以上は険悪になってしまいます。

 名残惜しいですが我慢します。

 そしてエルフ美少女と別れ部屋へ戻るのでした……



 アリシアは部屋へ戻りベッドへ入ると自分がドキドキしていることに気づくのだった。


「もう、何であんなにイケメンなのよ! 調子が狂うじゃない!」


 そう言う彼女は何故か嬉しそうだった。

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