第十一葉 「マネジメント」とは何か?

 さて、次にもう一つの言葉である「マネジメント」について述べます。が、その前に少しだけ寄り道をさせてください。実は、このマネジメントという言葉については、ケアマネジメントの先進国であるアメリカやイギリスで扱われ方にちょっと変化が出始めています。まず、アメリカの方ですが、世界的にも模範とされる専門職能団体NAPGCM(高齢者ケアマネジメント専門職協会)が、自分たちの会の名称から「マネジメント」をはずしてALCA(高齢期ライフケア協会)に変更しました。そして、ケアが必要な人やそのご家族に自分の職業を名乗るときには、「わたしは高齢期ライフケアの専門職です。高齢者ケアマネジャーと呼ばれていた職業です」と名乗るようになりました。なぜマネジメントという言葉をあえてはずしたのか、ALCA(高齢期ライフケア協会)のホームページ上では明言されていませんが、おそらくマネジメントという言葉の持っている一方向性が嫌われたのではないかと想像します。どういうことかというと、一般的な言葉の感覚からすると「マネジメントはマネジャーが行うもの」というイメージになります。しかし、それではケアマネジメントの主体はケアマネジャーで、ケアが必要なご本人やご家族の方が客体ということになってしまい、ご本人ご家族を主人公と位置づけて支えていく実際のケアマネジメントとの間にズレが生じます。そこで、ご本人ご家族に自分の仕事の内容を説明する際に誤解されないようマネジメントという言葉を避けたのではないかと思うのです。もっとも、そのALCA(高齢期ライフケア協会)でも専門資格としての「ケアマネジャー」や「ケースマネジャー」という言葉は使い続けていますので、マネジメントという言葉の扱いについては未だ流動的なのではないかと、個人的には思います。

 次にイギリスの例ですが、さきほどお話しました「パーソナライズド・ケア」の具体的な内容として、これからは「セルフケアマネジメント」を普及させていくという方針が打ち出されています。どういうことかというと、「ケアのマネジメントというのは本来自分自身で行うものである」と位置づけた上で、自分でマネジメントできる能力のレベルを四段階に分け、その人その人の段階に応じたサポートを受けられる仕組みに切り替えていこうというものです。そのサポートを担う役割がいくつかあって、その中のひとつが「ケアマネジャー」という位置づけになっています。イギリスの場合は、マネジメントの主体が原則として自分自身なので、一方向性によってご本人が客体化されるという問題からは逃れることができます。他方でサポートを担う専門職にマネジャーの言葉が残っていることやマネジャー以外にサポートする人がいるという意味で相互の役割分担がややこしいというか、言葉の問題として辻褄が合わない嫌いが残っています。これはこれで、アメリカとは別の意味でマネジメントという言葉の扱いが未だ流動的なのではないかと個人的には思います。

 今後、「ケアマネジメント」という言葉から「マネジメント」が完全に消えていくのか、それとも残っていくのか、残念ながらわたくしには分かりません。ただひとつ言えることは、仮にマネジメントという言葉が残ることがあるとすれば、それは、「マネジメントの主体はマネジャーで、客体はご本人ご家族」という主客一方向のマネジメント観ではなくて、「ご本人ご家族もマネジメントの協働主体である」という捉え直しをした上で、その意味で新たなマネジメント観へと進化して残るだろうということです。もっと言えば、エビデンスベースト一辺倒のマネジメント観からナラティブベーストの豊かなマネジメント観へと進化して残る、と言い換えることもできるのではないかと思います。またややこしいカタカナ言葉が出てきてしまいました。いけませんねぇ。寄り道がちょっと長くなってしまいましたね。さきほども申しましたが、カタカナ言葉とか、細かなことはあとの方で時間がとれるようでしたら情報を補いたいと思います。ここから先は、「マネジメント」という言葉がきっと残るだろうという見込みのもとにその定義について考えたいと思います。

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