第十二葉 おもいをかたちにするということ

 ええっと、おはなしを始めてかれこれ30分、40分ほど経過しました。みなさんお疲れではありませんか? 少し休憩を入れましょうか? よろしいですか? ここまでおはなしの内容はどうでしょう? ついてきていただけているでしょうか? ダメ? ややこしい? 大丈夫? そうですか・・・・・・。ええっと、とりあえずケアのマネジメントの定義まで終わった方が区切りがよいですので、そこまで進めましょうか? そこで休憩ということで・・・・・・。はい、ではもうすこし頑張ってお付き合いください。

 マネジメントとは何か、ですが、介護保険の世界ではPDCAサイクルだとか、アセスメントだとか、アウトカムだとか、経営学の方にひっぱられた使われ方をしていますけれど、 もともとは「手」のイメージに由来する言葉です。人が心の中で思っていることは、それだけでは外の世界に反映されません。心の中で思っていることは、自分の身体の動きを通して外の世界に出現させていく必要があります。信楽焼にたとえて言えば、頭の中でイメージされたひとつの壺の像を、自分の手を使って、練って捏ねて捻って焼かなければならないですよね。この世界に形あるものとして出現させていく一連の行動によって媒介されなければいけないわけです。そのような媒介となるおこないのことを「マネジメント」と言います。



(マネジメントの定義)

 マネジメントとは、人が心で願い、望んだことを、自らの手で形にして、それにいのちを吹き込むおこないのこと。



 手のぬくもりを伝えて、いのちを吹き込む、それがマネジメントの核心です。だから、いのちを粗末にすることは、マネジメントではありません。もしも、マネジメントを行った結果だれかが傷つくということがあったとしたら、そのマネジメントは「ほんとうのマネジメント」ではありません。

 また、コンピューターや機械が自動的に行うことも、マネジメントではありません。人が人と向き合い、心が響き合うなかで、人が自らの身体を用いて行動してはじめてマネジメントは成立します。人以外のものが介在した途端に、マネジメントは「コントロール」に変わってしまいます。それはほんとうのマネジメントではありません。

 さらに言えば、自分の両手で抱きしめられないほどの大きすぎる事業を扱うことも、ほんとうのマネジメントではありません。この「適正規模」に関する問題については、「スケール・メリットとデメリット」という角度から後ほどあらためて触れさせていただきたいと思います。

 さて、ここまでのおはなしをまとめると、ケアのマネジメントとはどういうおこないだと表現できるでしょうか? わたくしは、こんなふうに表現したいと思います。



(ケアマネジメントの定義)

 ケアのマネジメントとは、ケアがあまねくこの世界に生きる人々へ行きわたるように願い、出会う人ひとりひとりにその手のぬくもりを伝え、いのちを吹き込むおこないのこと。



 介護保険の現場で長く働き、国の介護保険政策の価値観にすっかり慣れてしまっている人は、このような定義の仕方に違和感を覚えると思います。また、理論研究を仕事にしている人であれば、なんでもかんでもケアマネジメントという言葉で説明しようとする「汎ケアマネジメント論」に傾いていると疑う向きもあるだろうと思います。あるいは、人によっては、いささか美文調で論理的な厳密性に欠け自己陶酔の嫌いがあるとすら疑う向きもあるかもしれません。その一方で、同じく現場のなかにあっても、ケアのマネジメントといいながら実際には必要なケアを奪うことに加担させられてると感じて悩んでいる人であったり、研究者のなかでも国の介護保険政策に違和感を持ち、ケアのあるべき姿を真剣に求め続けている人であるならば、わたくしの定義に深く共感できるという人がいらっしゃるでしょう。わたくしは、このような定義をあえて打ち出すことによって、批判・反批判の健全な営みが始まり、それが積み重なっていけばよいなぁと思っています。そして、はじめのうちは違和感を感じていた人たちも、さいごには「確かにそうだよなぁ」と思っていただけるところまで到達できると信じています。わたくしは、どこでおはなしをするときでも、わたくしのおはなしをおしまいまで聞いて「これまでのケアマネジメント観がすっかり変わったよ」とおっしゃる方がひとりでも多く現れるように祈りながらおはなしをしています。

 さて、一区切りして、ここでしばらくの休憩をはさみましょう。再開はちょっと長めに15分後くらいで良いでしょうか? はい、では15分後に再開とさせていただきます。


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