第51話 私の望む未来を愛する彼女は望まない (3) ~夕貴~

前書き


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残り話数を考慮して、残り三話を本日更新します。

宜しかったら、最後までお付き合い下さい♪



いつの間にか花火の音が聞こえなくなったことに気がつく。


「花火…………終わったみたいだね」


「ええ」


 顔を上げないまま呟くと、晴が身体に回した腕を僅かに緩める。


「晴」


「ん?」


「もう少しだけ…………このまま」


「ん」


 再び抱き寄せられると、今度は苦しいくらいだったけど、晴の気持ちが伝わるようで嬉しかった。


「……重くない?」


「全然」



「あのさ、晴…………」


「ん?」


「…………」


「…………夕貴?」


「…………」


 自分の身体が硬直しているのが分かる。折角晴が連れ出してくれた時に、こんな事を訊ねるべきじゃないのかもしれない。晴に嫌われたらどうしようと考えるとそれだけで怖い。そんな私の背中をそっと晴が撫で、意を決して口を開く。


「…………聞きたい事があるの」


「何?」


「…………あの時の、お母さんとの事」


「良子さん?」


「うん…………あの、ご、ごめん。やっぱり今の無しで」


 すぐに後悔して撤回しようとする私に、晴は驚く様子もなかった。


「夕貴は知りたいの?」


「…………うん」


 晴の反応が怖くて彼女の服を握りしめたまま、顔を上げれずにいると、晴がおもむろに口を開いた。


「……良子さんの入院が決まったとき、彼女から呼び出されたの。『頼みたい事がある』って」


「彼女からの連絡なんて、一度もなかったから嬉しくて飛んでいったわ」


「その時、良子さんが言ったの。私が渡した入院費用を押しつけて『娘が高校を卒業するまでの間、毎月このお金を渡して欲しい』って」


「『私はもらってばかりで、何一つあなたに返す事が出来ない。お金も、あなたの気持ちも……』そう言われて、私、断ったわ。お金が必要なら幾らでも工面するから、そのお金は受け取ってって。だけど、良子さんは頷かなかった」


「……………」


 思わず視線を上げた私に、晴が小さく笑った。


「だから、契約という形でお金を受け取ってもらった。その報酬は、……良子さん自身」


「…………………」


「………私、結局、我慢出来なかった。入院したらもう二度と会えないって分かっていたし、私が抱くことで、少しでも罪悪感が減るなら構わないと思って……それに、やっぱり、好きだったから……」


 暗い部屋の中、晴も私も何も言わない。だけど、晴の身体が少しだけ強ばっているのが分かる。



「話せなくて、ごめんね。夕貴」



 小さく笑った晴の言葉に晴の服を掴んだまま、必死で声を抑える。

駄目だ。今だけは、泣いてはいけない…………泣いていいのは私じゃないのに、止めたい涙は次々に落ちていく。


「…………どうして、夕貴が泣いてるの?」


 組み敷かれたままの晴が私の頬に手を伸ばす。そっと拭う指先も、私を気遣う口調も、いつもの晴だった。その事が酷く悲しくて、涙と共に、どうしても言いたくなかった言葉がこぼれた。


「…………ねぇ、……晴、私は……お母さんに、似てるかな?」


「夕貴?」


「先生に以前、言われたの。…………私とお母さん、そっくりだって。………晴は今でもお母さんが好きなんでしょう?」


 一度口にすれば、もう止めることは出来なかった。晴を好きになればなるほど、母と晴の関係が心の刺となり、私を苦しめていた。決して言うまいと思っていたのに、どんなに割り切ろうとしても、晴が私に微笑んでくれる度、「好きだ」と言ってくれる度、胸が苦しい。人を好きになるのは楽しいはずなのに、私の恋は痛みと苦しみの連続で、母を想う晴への嫉妬も加わった今、黒い感情が胸に渦巻いている。


 黙って私を見つめる晴に詰め寄る私の表情は、きっと醜いに違いない──


「だから、お母さんの替わりに、私を好きになったの?」


…………私は、こんな自分が大嫌いだ!!


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