第50話 私の望む未来を愛する彼女は望まない (2) ~夕貴~
前書き
おかげさまで遂に五十話です!
物語はもう少し続きます。お付き合い下さい♪
◇
僅かに震える身体を隠すように晴に訊ねた。
「上書きって………どう、すれば良いの…………」
「あなたの好きなようにすれば良いわ。夕貴が花火を見て怖がらなくなってくれるなら、私はそれで良いの。何なら、今からドライブでも行く?」
軽い口調とは対照的に、晴の目は真剣だった。私が空を飛びたいと言ったなら、本気で叶えてくれそうなほどに。
彼女の気持ちが痛いほど伝わる。本当に晴は心配してくれていたんだ。わざわざこんな場所まで用意して………
目を閉じると、花火の光が瞼に映る。甦る記憶に、どくん、どくん、と心臓がうるさい。震える足で膝立ちになると、晴を見下ろすように向かい合った。
まるで、あの時の様に。
晴は私から視線を離さない。心配するように、励ますように。
ガラス越しに一際大きな音が聞こえ、音だけではなく、フラッシュバックする記憶に身体がすくむ。
「大丈夫よ、夕貴」
「う、ん………」
私の望むものなんて一つで、それを望む人は一人だけ。
温かい晴の身体に自分の身体を押しつける。とくん、とくん、と聞こえる鼓動は確かに晴がそこにいる証。
……だけど、まだ、足りない。
もっと、もっと、晴が欲しい、晴を感じたい。私と彼女が繋がっている証が欲しい。
どうすれば良いかなんて分かっているのに、その一歩が踏み出せない。初めは「好き」と告げただけで幸せだった。傍にいてくれれば嬉しかった。一緒に手を繋いで出掛けるだけで楽しかった。だけど……
「夕貴」
名前を呼ばれるだけで、こんなに嬉しい。ゆっくり身体を起こし、震える指先で晴の頬に触れると、彼女の手が私の手を包んでくれる。そのまま指を絡め合うと、晴が空いた手で私を引き寄せた。緊張でからからになった唇を何度も湿らせてから、思いきって口を開く。
「晴…………キス……したい…………」
「ええ、喜んで」
にこりと笑った晴が少し顔を上げた。キスするときはいつも晴からだったけど、今日だけは、今だけは、私が彼女を望みたい。
その頬に手を添えてゆっくり顔を寄せた。鳴り響く花火の音が少しずつ聞こえなくなっていく…………
唇を合わせるだけのキスを何度も繰り返す。角度を変えて浅く、何度も。こぼれた吐息を掬われて、晴の温もりを飲み込んで。繋いだ手を握りしめて、身体を押しつけるように抱き合って。少しずつ深くなるキスに、自分が溶けてしまいたいくらい溺れて、苦しくても離したくなくて、自分の気持ちが少しでも伝わるように、晴をひたすら求めた。
長い長いキスの後、ようやく顔を離した時には、ベッドの上に晴を押し倒すような格好になっていた。晴が私を見ると、そっと指先を伸ばす。
「…………思い出していたの?」
目尻から流れた涙を払いながら訊ねた晴に、泣きながら笑う。
「ううん。凄く、幸せだったの」
そのまま晴の胸に飛び込むと、幸せの涙を流し続けた。
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