第42話 すれ違う想い (7) ~夕貴~

前書き


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本日二話更新しまーす♪



夢と現の間をさ迷っていたらしく、心ははっきりと自分を自覚しているのに、身体は眠ったままなのが分かる。


「────」


「────」



「!!」


いくつかの光景がフラッシュバックして、自分の上げた声で目覚めると、そのまま跳ね起きた。


「方法……あった…………

 でも…………」


 心臓はばくばくと脈打っていて、吹き出した汗がじっとりと身体にまとわりつく。怖い、一歩でも間違えばセイを失ってしまう。いや、そもそも彼女がこの方法を受け入れてくれなければ、そこで話は終わりだ。それでも、それだからこそ……何度も何度も考えたものの、これ以上最善の手はないように思える。


 気がつけば、既に何時間も経っていて、窓の外から見える太陽は随分傾いていた。意を決して立ち上がると、部屋を片付けてから、神山さんの元へ行く。何度かノックしたものの不在らしく返事はない。


「あの、神山さんにお会いしたいのですが…………」


 受付カウンターの中の女性に声をかけると、神山さんは仕事に出掛けたらしく、翌日にならないと帰ってこないらしい。部屋を借りたお礼と、彼女に話があることを伝えてもらうようお願いすると事務所を出る。一刻も早く神山さんに会いたかったのだが、彼女がいないのなら仕方がない、焦ってはいけない、私がしなければいけないことは他にもあるのだから。そう自分に言い聞かせて気持ちを落ち着ける。



 アパートに帰りついた時には、陽は既に沈んでいた。部屋を飛び出してから、まだ一日しか過ぎていないのに随分長い間離れていた気がして、シャワーを浴びて汗と疲れを流すと食事の支度をする。緊張で味を感じない料理を何とかお腹に押し込み、タオルケットを抱きしめて身体を横たえる。セイの香りを殆ど感じられなくなった事が悲しくて、それでも無理矢理目を閉じた。


 朝一番で事務所に向かうと、時間が早かったらしく誰もいない。初めから待つつもりで来たので気にせず受付から少し離れた場所に座りこんだ。ふと、いつの間に現れたのか、神山さんが目の前に立っていた。


「おはようございます」


「おはよう」


 立ち上がる私を一瞥する神山さんは少しだけ目を細める。


「昨日はありがとうございました」


「別に構わないわ。

それで、伝言を聞いたのだけど、用件は何かしら」


 神山さんを真っ直ぐ見つめて両手を握りしめる。


 落ち着け、落ち着け……






「依頼を、お願いします」


「………………へぇ、依頼、ね」


 口角を僅かに上げた神山さんが私を見返す。ほんの数秒だったのか、あるいは数分だったのか、どのくらいそうしていたのか分からない、ふっと彼女が微笑んだ。


「こちらへどうぞ」


 事務所の奥を先導するように歩き出す神山さんの後ろを、半歩遅れてそれでもしっかりついていった。






「難しい、としか言えないわね」


 神山さんの言葉に心が折れそうになるものの、否定はしなかったことに希望を見いだす。


「元から難しいのは分かっています。

それでも構いません。お願いします」


「…………」


 黙り込む神山さんの表情は険しくて、彼女も悩んでいるのだと分かった。ただ静かに反応を待つしか出来ない自分がもどかしい。


「その依頼、受けましょう」


「ほ、本当ですかっ!?」


「ええ、最初の手順さえ乗り越えられたなら、それほど難しいものでもないしね。それに…………」


 思わず身を乗り出す私に、神山さんが僅かに微笑んだ。


「私への報酬も魅力的だもの」


 その言葉に浮わついた心の奥がぎゅっと引き締まる。そうだ、これは始まりに過ぎなくて、私達はこれから難しい問題に立ち向かわなくてはならないのだ。


「夕貴ちゃん」


「はい」


「これはあの子に全てがかかっているわ。

 もし、セイが望まないようなら…………その先は分かるわね」


「はい」


 怖くて怖くて声が震える。ずしりとプレッシャーがのしかかり、私の選択が正しいのかなんて分からなくて不安がつきまとう。それでも、セイには生きて欲しいのだ。


「とりあえず、ぎりぎりまで調整してみるから」


「お願いします」


 ぺこりと頭を下げて立ち上がると、ドアに向かう。緊張で強ばってぎこちなくなってしまう自分に活をいれるように歩き出す。


「この街である花火大会よ」


「?」


「セイとのデートの待ち合わせ。……これ以上は言えないわ」


「!」


 神山さんの言葉に何も言わないまま頭を下げて、事務所を後にした。

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