第38話 すれ違う想い (3) ~夕貴~

前書き


自分が書きたい小説を書いているつもりですが、編集や推敲をしていると、「これで良いのかな」と展開やストーリーに不安になることが良くあります。何せ暗い話しか書いてきたことがないので (笑)

だからなるべくPVは気にしないようにしています。その代わり、時折つけて頂く★評価やフォロー、🖤マークに凄く支えられています。

読んで下さり、本当にありがとうございます!



どこからか聞こえる電話の音が沈黙を破った。


 先生はポケットからスマホを出すと「すまんね」と私に一言謝ってから耳に当てる。時計を見ると、もう日付が変わる頃だが驚く様子もなく何かを話す先生のスマホからは、切羽詰まったらしい男の人の大声が私にまで聞こえてくる。


「ええと…………あんた、名前は何と言ったかね」


「私ですか? 立野夕貴です」


「そうか、夕貴ちゃんか」


 一人納得したように何度か頷いていた先生が立ち上がり、隣のドアを開けた。何気なく目を移すと、そこには病院の設備と同じ様な機械類が整然と並んでいる。


「すまんが、夕貴ちゃん」


「はい」


「机の上にある電話の内線ボタンを押してくれんかね」


「分かりました」


 言われるがまま机に向かい、内線ボタンを押すと、不意に扉の向こうが騒がしくなる。複数の足音と低い呻き声、焦ったような雰囲気に恐怖を覚えて立ちすくむと、やがてドアが乱暴に開き、三人ほどの男性がなだれ込んできた。


「!?」


 思わず叫び声をあげそうになるのを必死で抑える。両側から抱えられるように入ってきた真ん中の男性はぐったりとしていて、上着にはおびただしい血が付いていたからだ。


「先生っ!!早くっ!!」


「落ち着け。さっさと奥に寝かせなさい」


「大丈夫だ。先生が診てくれるからな!だから、しっかりしろよっ!!」


 先程ののんびりした様子とうって変わった様な先生がてきぱきと指示をする。寝かされた男性に必死で声かけをする二人は、私の事など視界に入ってもいないようだった。身動き出来ずに見守っていると、再びドアが開いて誰かが入ってくる。


「!! か、神山さん!?」


「あら」


 私の姿を確認すると、さすがに驚いた様子を見せたものの、直ぐに表情を引き締め、奥の部屋に向かう。呻く声が弱々しくなり、必死で声をかける男性の声の間から、先生と神山さんの冷静な声が聞こえてくる。やがて何か言われたのだろうか、付き添っていた男性達がこちらの部屋に追い出されるようにして現れた。


「夕貴ちゃん」


「は、はいっ!」


「そのおじさん達とおしゃべりでもしていてくれる」


「えっ!?」


「そこにある物、適当に使っていいから」


 神山さんの言葉に顔をしかめた二人だけど、何も言わずに引き下がった。直ぐにドアが閉じられ、無言のまま落ち着かない様子の二人に私も緊張して動けなかった。良く見ると二人ともぼろぼろであちこち血だらけだが、そんな事を気にする風でもなく、奥のドアの向こうを見つめていた。


「……タキさん、大丈夫ですよね」


「当たり前だろ!

 先生がついててくれるんだ!!」


 震えながら呟いた言葉に、言い聞かせる様に怒鳴る男性の声も悲壮感が漂っていて、タキさんと呼ばれた人の怪我が決して軽いものではないのが分かる。小刻みに震える二人に何も出来ない、その場から一歩も動けない。ふと、机の上にお茶道具があることに気がつく。ただ待っているだけの二人にせめて自分が出来ることを、と思い、二人分のお茶を淹れて目の前に差し出した。


「あのっ、よ、よかったら、ど、どうぞ……」


「…………」


 無言で睨む二人に恐る恐る勧めると、それでも一口呑んでくれた。少しだけ落ち着いた様に一人が傍の椅子に座り、もう一人は戸棚に寄りかかる。重苦しい沈黙が辺りを支配して、身動きする事すらためらってしまう。


どのくらい経ったのだろう、ドアが開いて、疲労困憊といった先生が部屋に入ってきた。弾かれたように二人が先生の元へ駆け寄っていく。


「先生…………」


「…………入院先の病院でくれぐれも迷惑をかけん様にな」


 その言葉に緊張の糸が切れたように二人がへなへなと座り込む。掠れた声で「助かった……」そう呟いたのが聞こえた。

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