第15話 孤独な心 (8)

前書き


我が家のネコが庭で座り込んでいたので、気になって見てみました。どうやら小鳥を捕まえたらしく、口から小鳥の両足だけが出ている状態のネコに、思わず叫び声をあげてしまいました。とってもスプラッタな光景に、今年一番の恐怖を感じました。



部屋に戻ると、夕貴が眠っているのを確認する。タオルケットを被って横になると、テーブルの向こうで小さく呻く声が聞こえた。うなされているような声が心配になって近寄ると、そっと声をかける。


「夕貴?」


 身体を丸める様にして震えている夕貴の目は固く閉じられたままだったが、その寝顔は決して穏やかではなかった。



「…………お母さん」



 小さく呟かれた言葉に思わず息をのみ、布団越しに夕貴をそっと抱きしめた。細い背中を擦ってやると、震えが少しずつ収まっていく。しばらくして身体を離そうとすると、夕貴が身体を寄せてきたので、仕方なく彼女の隣に横になる。柔らかい髪を撫でながら、早く離れないとこのまま寝ちゃうかもな、と考えていると案の定、いつの間にか眠ってしまった。



 目を閉じながらも朝日を感じて、時計を確認しようと手を伸ばそうとした時、身体に違和感を覚えた。目を開けると、夕貴に腕枕をして足を絡め、密着した状態で布団の中にいる。夕貴が目覚めたら確実に怒るだろうと抜け出そうとするものの、彼女の腕が私の身体に回されているため、動くことすらままならない。


 触れている身体が熱くて、頬に手を当てるとやはり熱がある気がする。確かめようと何度か触れていると、身じろぎした夕貴が胸にぎゅっと顔を埋めてきた。無防備に眠る横顔に抜け出す事を諦めて、ぎりぎりまで寝かせてから、起こすことにした。


「夕貴、起きて」


「…………う、ん」


 何度か身体を揺すると、ぼんやりとした目が私を見つめる。


「おはよ」


「………………」


 すぐ目の前にある夕貴の目が見開いたまま動かなくなり、恐る恐る視線が動く。私に抱きついているこの状況を次第に理解したらしく、みるみるうちに顔が赤くなった。


「あー、何と言うか……ごめんね?」


 とりあえず謝ってみるが、案の定思いっきり突き飛ばされ、布団に籠ってしまった。ようやく離れた身体を少し残念に思いつつも「朝食買ってくるからね」と声をかけて着替えると外に出た。


 買ってきたパンを手に持ち部屋に戻ると、既に制服姿の夕貴がそこにいた。私を見て顔を赤めながらぷいっと背ける表情に、相当怒っているな、と苦笑する。テーブルに向かい合って食べる朝食に相変わらず会話はなく、冷えた雰囲気に一応釈明を試みる。


「一緒に寝たのは悪いと思うけど、何もしていないから安心して」


「そんなの信じられないわよ。

 あんた自分で言ったじゃない、子供には手を出さないって」


「本当に出してないから」


「それなら、どうしてあんたが一緒に寝てた訳?」


「……成り行き?」


 夕貴がうなされていたからとは言えず、かといって上手い理由なんて思いつくはずもなく、口にした言葉にジト目を向ける彼女は無言でにらんだだけだった。


 そそくさとパンを食べ終えて鞄を持って立ち上がる夕貴に、念のため「何かあったら電話してね」と声をかける。無言の返事に完全に嫌われたな、と内心苦笑いしながら仕事に向かう準備を進めた。


「……いってきます」


 小さく聞こえた声に振り向くと、ドアの向こうで仏頂面の夕貴が私を見ている。


「……いってらっしゃい」


 くすぐったさを感じながら送り出すと、思わず笑みがこぼれた。

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