第19話

 図書当番の件、上島君に伝えました。

 明日からは先生もいらっしゃるそうです。

 図書の登録は終わっているので、仕事は棚入れ作業になると思います。

 大変ですが、頑張りましょう。

 送信して、一息つく。たぶん放課後までには「承知しました」とだけ書かれた返信が届くだろう。と、丁度携帯電話を弄っていたのか、彼女からいつもより早く返信が来た。

 承知しました。ありがとうございます。

 江連先輩を助っ人に呼んでもいいですか?

 ……江連君を?

 上島君も華音もいないのに、何の用かしら。彼も図書委員ではあるから、手伝ってくれるのは助かるし、うれしいのだけれど。承知した旨を伝えて、弁当を広げる。と、陰が落ちた。

「明希、一緒に食べていいかな」

「いいけれど、いつも食べている人たちはいいの?」

「あ、ええっと、いや。できたら、みんなで食べたいんだけど、迷惑かな」

 ちろり、とみると華音の友達が仲良く机をくっつけているのが見える。(まるで小学校の給食の時間だわ)そう思いつつ、さりげなく作られた空席を見やる。

「いいわ。あっちね」

 弁当箱を持って移動すると、彼女たちは一瞬珍しそうな顔をしたがすぐにいつも通りの盛り上がりを見せる。どうやら人の出入りが激しいグループらしく、こうやって集まっているメンバーは日によりけりのように見えていた。今日はどうやら、この四人らしい。

「明希は今日も図書室?」

「ええ」

「その、ええと、柾も一緒だよね」

「いいえ。彼は来ないわ。江連君はくるけれど」

 琢馬君が、と華音は少し驚いた顔をするが、すぐに何でもないような表情に戻る。

 他の四人と少しずつ言葉を交わす。頭の中がふわふわして、意識が酷く不明瞭だ。寝不足のせいかしら。皆が携帯電話を弄り始めるタイミングで、私は机を戻して、自席に付いた。

「江連君、それは伝記だからこっちの棚にお願いできる?」

「お、ごめんごめんー」

 それでも本を格納していくその手際は悪くなかった。私も手に持った本を格納していく。真新しい本の背表紙の割合がまた少し増えるが、まだまだ何も入っていない場所も多く存在する。次の仕入れのアンケート用紙を作らねば、と考えを巡らせる。

「先輩、これで終わりです」

「そう。お疲れ様。頼んでいいかしら」

「もちろんです!」

 テスト開けだからか、図書室を利用する生徒はほとんどおらず、数人が思い思いの場所で、読書を楽しんでいる。上島君のいつも座っていた席が空席で、いつもの席には司書の先生が座っている。彼女もまた、読書家の一人で、私に気付かず読書を楽しんでいる。

「先生、代わります」

「ありがとう」

 席を変わって、コンピュータの前につき、本を開いた。

 ちら、と前をみやると江連君と原さんが仲良く本を仕舞っている。あまり表情を表に出さない性格なのに、ひどく楽しそうで、なんだか悟った様な気分になる。そういうことなのだろう。

「すみません、貸出お願いしていいですか」

 その声にはっとして本を受け取ろうと手を伸ばす。が、なんだか力が入らない。机の下にまで落ちてしまったそれを拾おうと立ち上がった瞬間に、目の前が徐々に、そして完璧に真っ暗になった。

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