第4話

『おしごと大変そうだね。私も手伝えたら良いんだけど』

 サンリオキャラクターのイラストで見にくいキーボードでそう打ち込んで、見直す。

「……うーん」

 どうしてもそれ以上の言葉が出てこなくて、私はベッドに体を投げる。本当は、「会えなくて寂しい」とか「一緒に帰れないなんて嫌だ」とか、いろんなことが頭の中で絡まってるのに。とりあえず、味気なさは絵文字でカバーして、これで送信してしまおう、とボタンを押した。

 メッセージを見て、柾はどう思うんだろう。面白くない女と思うのかな。他に言うことないのかよって思うのかな。私はこれが精一杯なんだけれどなあ。ちょっとでも一緒にいたいっていう気持ちを、二行目に込めてみたんだけれど。……現代文のテストみたいだ。回りくどすぎるでしょ、と自分に突っ込みを入れる。ぶるる、とケータイが震えた。

『思っていたよりは楽だよ。今日は琢馬も付き合ってくれたし』

『華音も来いよ。明日も今日の続きするって言ってたし』

 来いよ、かあ。その本心がわからなくて悶々とする。あーあ、向こうもそんな風に考えてくれていたら良いのに。遅れて付け足された柾のお気に入りのスタンプは、笑顔でぴょこぴょこしてる。これ以上なくわかりやすいのに、ぜんぜん本当の感情が見えないよ。

「やっぱ、私なんてどうでもいいのかなぁ……」

 でもでも、どうでもいい相手と一緒に帰ったり、頭なでたり、するのかなあ。いやしないよね。するわけないよ。だってそんなのめんどくさいし。いっつも傍に置いてくれるし、こういうやり取りだって毎日してくれる。しかもそのどれもが、すごい速さで帰ってくる。私以外としてたら、絶対に無理だろうっていう速さだ。

「あーあ。好き」

 面と向かっては冗談でも言ったことのないその二文字は、彼を直接見てなかったらこんなに簡単にいえるのに。……私って、彼女だよね? 言ってないけど、私の気持ちには絶対気づいてるよね。だって柾、相手のことに直ぐ気づいてくれるし。私はそういうところが好きになったんだもんね。柾、絶対、私のこと大好きだもん。絶対。

 でもなあ。

 ぐるぐるぐるぐる考えてたら、視界がぼやけてきて瞬きする。と、目じりから頬にかけてつうっと生暖かいものがおりていった。

(もう、なんで泣いてるんだろ)

 馬鹿みたい。いや、馬鹿だった。馬鹿だよ。もうやだ。

『琢馬君もアタック開始だね』

『うん 行く! 明日放課後 私も手伝いに行くね』

 私が持ってる中で一番笑っていそうな、テンションの高そうなスタンプを。

「送信、っと」

 スタンプだったらこんなに笑えるのになあ。

 かわいくいられるのになあ。

 文字なら元気でいられるのになあ。

 素直で、いられるのになあ。

 ぼろぼろと、涙は止まらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る