10月31日 未明 ホテルサンスーシ琴雪駅前
メモ帳のページ数とボールペンのインクの残りを確認して寒河江は硬いベッドに背中を預けた。レコーダーも抜かりない。準備が出来たら寝なければと分かっていたが、昂ぶった心臓は落ち着きやしない。この取材の結果如何によっては、自分の進退が決まりかねない。くるくるとペンを回す。不思議と心が落ち着くようだった。御礼のお茶菓子を何にしようと、部屋備え付けのメモ帳を引き裂いた。
地元のテレビ局のスポーツ担当の記者になってからもう数年が経つ。元々ニュース担当だった寒河江がスポーツ部に飛ばされたのは誤報がきっかけだった。出すタイミングさえ合っていれば、大スクープになりえたはずなのに。それからも報道部に戻るためにあれこれ手を尽くしたが、どれも無駄骨に終わっていた。
『ええ、はい…。え、本当ですか?はい、はい、明日?』
寒河江のもとにその電話が来たのは今朝のことだった。万全を期すために現場近くのビジネスホテルまで取って、そこまでするのかと自分でも馬鹿げていると思わなくもない。しかし、これが失敗すればもうどうにもならないのだ。
「必ず取ってやるからなあ」
面白くもないのにゲラゲラと笑う寒河江を嘲るようにベッドがぎしりと軋んだ。
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