10月30日 午後6時丁度 琴雪警察署

「本当にこの封筒は犯人が送ってきたんだな?」

内容如何によっては、明日朝から張り込むことが決まっている。眠れなくなると分かっていても藤沢はコーヒーを飲むのをやめられない。

「飲みすぎるなよ藤沢。お前は明日きっと仕事だよ」

「門田さん心配性っすね。俺だって何年もこの仕事してるんすよ」

入っていたDVDを再生する。犯人は顔も声も出さず、テロップだけで自らの犯行要求を伝える。映像に映った写真の子どもは笑っていた。

「ビンゴだ」

「明日は子どもと遊ぶ予定だったんですけどね」

「馬鹿言え藤沢。お前に子どもなんていねえだろ」

「近所の子どもですよ」


ロッカーにピストルをしまい込んで変わりに胸ポケットの愛人を連れて喫煙所に急ぐ。ニコチン中毒でカフェイン中毒の藤沢は少しでもどちらかを切らすと苛々して仕方ない。はあ、と誰もいないのに煙を円状にぷかぷかと浮かべてみせる。5年前からだ。いつでも煙の形に意味を求めてしまうし、いつでもカフェインを取った後の倦怠感に包まれていないと落ち着かなくなったのは。

「あのガキ明日は来ねえだろな」

週末になると必ず向かいの老夫婦の家に孫娘がやってくる。高齢で身体がだいぶきかない祖父母を尻目に孫娘はぎゃんぎゃんと高い声で喚いてみせるのだから、貴重な土曜の睡眠を邪魔された藤沢が遊んでやるのだ。最近自転車を買ったというから、どこか連れていけと言われたら嫌だなとピースの香りの中でぼんやりと考える。

「ま、明日は仕事なんだけど」

愛しのピースの灰をはたき落とすと藤沢は制服の首元を緩めた。

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