#15

「いないんですか一之瀬先生は?」

「すいません一之瀬先生は三ヶ月ほど前に、お辞めになりました」


たちばなクリニックの受付で馬渕は

一之瀬麻里弥がいない事実を知らされ困惑している


「一之瀬先生は今どこの病院にいるかわかりますか?」

「すいません、個人情報なのでそういうことは.....」

「そうですか、わかりました」


食い下がるわけにもいかず病院を出ることにした

力なく、たちばなクリニックの側にあるベンチに座り

一之瀬麻里弥に電話してみると無機質な録音した声が現在使われてないこと繰り返している


いつ来るかわからない地震のような心の壊れ

今は落ち着いているけど明日もなんて保証はない

ここにきて頼みの綱を失った


麻里弥に頼れないのはショックだけど

悩んでいても仕方ないのでビールを飲みに異今都へ向かった


席に着いて頼んだビールを速攻飲み干し

2杯目のビールを飲んでいるとドアベルが鳴り来客を告げた

いつもなら綺麗な真鍮の鐘の音は虚しく聞こえる


誰が店に来ているかなんて構いやしない

今日の俺はビールに頼りビールに癒されビールに呑まれるのみだ

金色に輝くこいつで、さっきのショックを洗い流し

これからの不安を忘れようとしている

結局酒に頼っているけど自分を憐れんじゃいない

これが最短距離の心の治療と言い聞かせ2杯目のビールを飲み干した


「すいませんトイレはどちらですか?」

隣に誰かいたことを視覚ではなく聴覚で知らされた

完全に周りが見えていない自分に少し呆れた


空になったグラスをコースターに置くと隣の男の携帯電話の画面に

知った名前が表示されているのが見えた

そこには一之瀬麻里弥の文字がハッキリ見える

疑いたくなる偶然は、すぐ傍にあるなんて

麻里弥を見つけるには、この携帯電話の持主に頼るしかない


トイレから戻ってきた携帯電話の持ち主の顔を見ると知っている顔だ

先週、後ろから声をかけてきた男


この男が麻里弥を見つける頼みの綱かもしれない


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