#7

表通りの店を出て通い馴れた道を練り歩く

片手で8割程つまった紙袋を抱え

帰路につく途中で土曜の午後を迎えた

時折新緑が木漏れ日と影を彩り

深夜の雨を微塵も感じさせない五月晴れだ


自宅のパソコンの前で受注した仕事に取り掛かる

たまに視界に入るキッチンに置かれた茶色い酒瓶

あれを飲まなきゃ寝れなかった日や飲みながら仕事をしていた事

飲んでも寝れずに気付くと朝を迎えたこと

今では笑い話になる悲痛を忘れないための戒めとして

酒瓶は捨ててはいない


と言いたいところだが

仕事のしすぎでオーバーヒートした脳を冷やすため

週の半分は冷却剤として嗜んではいる


フリーランスのWebデザイナーになって1年が経つ

クライアントは企業が3割、個人が7割

圧倒的に個人事業主が多いのは起業前からわかっていた

知り合いのつてで紹介してもらった女性個人事業主

彼女から派生した口コミや人脈でクライアントは女性が多い


エステにサロンに雑貨等、女性特有の美と可愛いの欲求が存在しなければ

俺は今頃、世捨て人か野垂れ死んでいるだろう

言い過ぎなんて言われるかもしれないが事実だ

仕事を失うとは別の失望が青天の霹靂として降り注いだ


フリーランスになって3ヶ月後に幸福に出逢い

その2ヶ月後にやってきた苦しみのサプライズ

このサプライズのせいで酒に溺れた


自我を保つには溺れるしかなかった


アル中気味の自分を救うためメンタルクリニックに通った

手の震えはなかったが心が崩壊寸前だった

いい歳こいて医者の前で泣き崩れ泣き止むと心は少し晴れた

話を聞いてもらうことがこれ程重要なんて思いもしなかった


抗鬱剤を処方してもらい正式に躁鬱病の仲間入りが確定した

担当医が女性だったので彼女がマリアのように見え

帰宅して薬を飲みながら聖母マリアの事を調べていた

その日聖母マリアの記事を見ながらパソコンの前で寝落ちしてしまい

翌朝に神よりも神の母にのめり込んだ自分が滑稽に見えた

キリスト教には入信せずに酒との闘いが始まった


酒を断つためにブラックコーヒーを摂取するようになり

通院から一カ月も経たない内に自宅には

コーヒー豆、ミル、ペーパーフィルター、ドリッパーが揃い

断酒のためにコーヒーで副交感神経を刺激する日々

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る