キリとカスミ

Katu

第1話ボールペンとクーラー


 

  高校二年の夏、それは人生の中で最初から数えた方が早い程大切な時期だ。

少なくとも俺はそう思う

えっ?「じゃあ忙しいんだろ」って?  

忙しかったら、こんな文章をノートに書かないだろ?

クラスメイトは全員が海や登山や楽しい思い出づくりだよ!

俺はクーラー付けてない中、心にある闇をノートに書き出しているんだよ!気づいてくれよ!そもそも何で俺だけハブられるのかが言‥…

 

「遂にボールペンにも嫌われたか…」

 インクが切れて白く掠れた文字を睨みつけて、諦めたようにベッドに寝転ぶ。

「今何時だっけ、少し腹が空いてきた」

 一応これでも健康に気を使っているのだが、空腹には勝てない。

 俺は五分遅れているデジタル時計を確認して、夜の街に繰り出した。

(今の言葉カッコいいよな。ただの夜食買いにコンビニ行くだけだけど)

 「あっざましたー」気の抜けた接客をする店から出たら

ふと、街灯の先から視線を感じた。(綺麗な人だなぁ。)

一目見てそう感じた。歳は俺と同じぐらいだけど変に大人びていて、

華奢だけど洗練されているような、チグハグな印象を与える……

いや、この少女には人間味が無いんだ。

  

「失礼ですが、貴方様は初対面の女性の体を凝視した挙句罵倒する趣味でもあるのですか?」

「いや、違うって!ただ見とれてしまっただけで……」

「へぇ、女性の扱いを良く分かっているのですね」

駄目だ。完全に変質者だと思われている!

「まぁ、そんなことはどうでもいいです。」

「どうでもいいの!?」

「神堂飛季、貴方の一番大切な人が死にます。」 

「え?」あまりにも唐突だったので、変な声が出てしまった。

だって、急に死ぬって言われたもん。

「どういう意味なんですか……って」

 今度こそ俺は絶句した。

居ない、俺の前にいた女の子が消えた……綺麗さっぱりに、まるで霧のように。

 

 

 俺は家に帰った後、少し考えた。

 第一あの女の子は何者か?

 第二俺の大事な人は誰なのか?

 まず前者から考えよう、俺の考えは熱中症で変な女の子の幻覚が見えた。

 それにしてはかなりリアルな幻覚だったし

 感覚もハッキリしていた。

 後者はまだ分からない。いや、俺にも大事な人はいるが

一番とは誰なのかが分からないんだ。

勿論ただの幻覚として片付けてもいい、次の日の朝にはキッパリ忘れているだろう。

ただ、もし、もしも、万が一あの女の子が言ったことが本当だったら、

俺の一番大事な人が死ぬ。ならば、もう少しだけ考えよう、

一番大切な人がだれなのか……まずは家族、親は考える必要もなく大切だ。

友達は……は、いるけどもさほど大切じゃない。

だが親が一番大切ならば簡単すぎて……いや一人いる。

考え抜いて出た答えが思わず口から飛び出した。「カスミさんかぁ!」

カスミさんとは、高校のクラスメイトで俺が一方的に恋をしている人だ。

いつもは怖気ついて連絡なんてしないが

 今日は、今日だけは、勇気を振り絞りスマートフォンを手に取る

機械音が鳴り響いた。

「もしもし?」可愛い声が聞こえてきた

 それだけで俺は天にも登る気持ちになる

「い、いや。あのー」(やっべ何にも話題考えて無かった!)

「あのさ!明日デパート行かない?」

「うーん明日の予定はーーうん!大丈夫だよ!」

「じゃ、じゃあ明日の十二時にデパート前の噴水で!」

 や、やってしまったぁ!遂に憧れのカスミさんとデ、デート!どうしよう明日待ち合わ

せ場所に行ったら誰もいなかったり、待ち合わせに遅れてしまったらどうしよう!

「さすが変態すぎて引きますね」

「うるさいわ!って、え?」目の前にいたのは、こうなった要因で、全ての元凶

「ミストちゃん!」

「誰がミストちゃんですか!え?というかなんでミスト?」

「霧のように消えたからだけど?」

「そんなさも当然みたいに言わないで下さい。はぁ、まぁ良いです貴方に言い忘れたことがあります。」

「それは一体……」

「回避法です、死の。」その言葉を俺は待っていた。

「よく聞きなさい。貴方の一番が死ぬのを止めるには、『二番目に大切な人を殺しなさい』」

 

 光が見えたと思った。誰も死ななくて好きな人と仲良くなれる……

いや、流石に夢を見過ぎたか。

 結局、ミストが告げたことは二つ

「死ぬのを防ぐには、二番目の人物の名前をミストに教える。

そうしたら、一番の人は助かる二番目の人は、死ぬ。」

「二つ目、明日ミストが会いに来るその時までに二番目を考えておけとのことだった。」

 俺は、気づいたら噴水前にいた

 全ての記憶が夢だと思い、今からカスミさんと出会うことだけを考えていた

 「お待たせ!」まるで太陽みたいな明るい声が聞こえた

「いやー遅くなってゴメンね?」向日葵のように鮮やかな黄色の髪。

  少し焼けた肌、どれを取っても可愛さに溢れている少女、それがカスミさんだ。

「おっとーあまり女の子の体を見つめすぎたらダメだよ」

「ご、ごめん!そんなつもりじゃぁ…」「うそうそ!冗談だよ」

ケラケラ笑う姿に見惚れてしまった俺は、彼女に急かされて足早にデパートに向かった。

「ねぇねぇ!この服どう?」カスミさんが合わせている洋服は白いワンピースで

横に青いリボンが付いている。一言で言えば、かなり可愛い!

「すごく似合っているよ!」

「うーん買おうかなぁーいやー」

「そんなに欲しいなら僕が買おうか?」

「それは駄目!」陽気な見た目から想像出来ないほど、悲痛な叫びだった。

「ご、ごめんね」

「いや、カスミさんは悪くないよ!けども、どうして……」

「飛季君、アイス食べよっか?」

 こうして僕たちは、フードコートにやって来た

「私ね、家が貧乏なんだ」

スプーンを弄りながら重い口を開けた

「別に、生活に苦しむ程ではないんだけどね。友達と遊ぶ時もいつも皆から乞食とか囃し立てられてね」

 辛い過去を告白してくれたせいか、カスミさんの目に少し涙が浮かんでいる。

俺には想像出来ないけど、いつも遊んでいる友達から言われる悪意のない暴言。

いや、悪意がないからこその冷たさと棘を持っているのだろう

「俺は大丈夫だよ。たとえどんだけ貧乏でもカスミさんが好きだし」

「え?」(あ、やばい)

「いや、違うんだ!違わないけど!」

「そっかー私が好きなんだー」

クスクスと笑う少女に、少しだけだが小悪魔の片鱗が見えた

 

 

 結論から言おう、俺の華やかな高校生活の道はかなり進んだ。

だけど本題のミストちゃんの宣告……つまりは俺の一番大事な人が死ぬことに関しては、一歩も進んでいないどころか逆に二歩ぐらい戻っている

それぐらい俺はカスミさんのことが、さらに好きになった。

好きになればなるほどその人に危険が及ぶのに……

だけども、一つだけ俺はミストちゃんに対抗する考えがある。

俺は、明日で全てを終わらすために早めにベッドの中に潜り込んだ。

 

 

 チクタクと時計の音が鳴っている。

 時刻は夜の九時、まだミストちゃんは来ていない。約束の通りならそろそろ来るはずだ「呼びましたか?」

二日前なら心臓が飛び跳ねるほど驚いていたのだが、もう慣れてきた。

「それで一番と二番では決まりましたか?」

「その前に俺の推理を聞いてくれないか?」

無言を肯定と受け取った俺は自分の考えを述べる

「まず気になったのは、なぜ俺の所に君が来たかだ。考え抜いた末に出た答えは、一つ」「俺が死ぬから君がきたんだろ?ミストちゃん。いや、カスミちゃん」

「いやーやっぱり飛季君は頭いいね」

照れているのか頬をポリポリと掻きながら話し始めた。

「そうだよ。私は未来から来たんだ」

突拍子も無い話だが、俺はもう慣れてきた。

「十年後のこの世界は、人が増えすぎて資源が枯渇してね。未来に必要な人材だけを残してその他のモノは切り捨てるんだ」

「だから分かったんだね、ボールペンのインクが切れることや、君に電話することも……体験しているから」

「そうして、一番大切な人を未来に残し、二番目を切り捨てる」

この天国と地獄が混じった三日間を体験した俺の最後の答えを出す。

「俺が一番大切な人は、カスミさんで……二番目は俺自身が大切だ!」

最低の発言だが、この況ではこれが最善だと思う。

「そうか、飛季君の答えはソレなんだね」

「じゃあねカスミちゃん」

膝が震える。

俺はヒーローでは無いから格好つけた台詞も言えないし、二人ともは救えない。

「飛季君ならやってくれると思ったよ」

どういうことだろうと、考えている内に睡魔が襲ってきた。

「じゃあね」

 

政府が私、カスミに課せた任務は飛季君か私どちらかが死ぬかを決めることだった

しかし、政府は十年後の世界にとって私たちはどちらも重要な人材だと思ったらしく

「もしも神宮飛季という人物が自分の身を犠牲にしても恋人を守る程の善人であればどちらも救う」私はこのかすかな希望を頼りに、過去に戻った。

 

 

俺はこの数日間変な夢を見ていたらしい。

 学園のアイドルのカスミさんに猛アタックしたらしく、なんと俺たちは恋人になった。

「あれ、インク減ってきた筈だっただけど」

 ノートを閉じて布団に入る。

徐々にクーラーが部屋を冷ましてくれた。

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キリとカスミ Katu @lapis_17

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