第37話
「まぁ、バレていたとしてもすることは一つだからな……」
ギルド長を暗殺する。それ以外に道はなさそうだ。
誘惑での暗殺に失敗した以上、もっと確実性の高い暗殺をしてきそうだ。
でも、暗殺ランクで考えると誘惑がダメとなるとその上はナンバーズしかいない。
(俺の正体に気付きかけてるならナンバーズには頼んで来ないか……。ただ、Sランク冒険者の片割れはすでに殺している。あとのギルド長が持ってるカードといえば……)
「直接出てくるか……。向かい合って俺が勝てるはずないんだけどな……」
苦笑を浮かべるカイ。
今までは正体に気づかれる事自体がなかった。
それがこうやってバレてしまった場合は……。
ブラークの力を借りるか。
一応そういった場合に対処する方法もいくつかは準備してある。
その一つを仕方なく切ることにした。
「それじゃあ俺は少し出てくる。アルマは誘惑を見ていてくれるか?」
「もちろん追加で請求させて貰うけどね」
「はは……、ほどほどにしてくれると助かる。それじゃあ俺は少し出てくるな」
「待って! どこに行くの?」
「もちろん、命を狙われているならやり返さないとな」
「で、でも、相手は元Sランクで多分今この国で一番強い相手なのよ?」
「……知ってるよ。伊達に狙ってきていないからな」
不安そうな表情でみてくる誘惑。
「狙うって……、もしかして――」
「まぁ、そういうことだ。それじゃあ行ってくるな」
「待って! わ、私も連れて行って。で、できることなら手伝うから」
誘惑が慌てて言ってくる。
何を考えているんだ?
もしかして、ギルド長をやろうとしたタイミングで裏切ろうとしているのか?
そういえば誘惑はナンバーズの地位を狙っていたな。
それにまだ魔法の影響が残っている可能性も残されているか……。
「もう魔法の効果は残ってないわよ。でも、どうするの? その子が行くなら私がここに残る理由なんて――」
「いや、一応ここを守っておいてくれ。いざという時にチルを連れてくるかもしれない」
「……ふぅ、まぁいいわ。お金さえもらえるなら私はね」
「それじゃあ誘惑、行くぞ!」
「わかったわ」
俺たちはブラークの店へ向かって進んでいった。
◇
「カイ、戻ってきたのか……。ってどうしてここにカロリーネがいるんだ!?」
「……その名前で呼ばないでって言ったでしょ?」
「あっ、今朝のお姉さん……」
チルが厨房から出てくると誘惑の姿を見てホッとしている様子だった。
「まぁちょっとあってな。すこしブラークの力を借りる必要がありそうだ」
「……相手はギルド長か」
「わかったか?」
「カロリーネがここにいる時点でな。ならどういう手はずで行くか決めないとな」
「まぁ、おそらく相手はギルド長一人だ。集団でいるときほどカイは力を発揮するわけだから小細工なしで向かい合ってくるはずだ。だからこそ虚を突くしかない」
「つまり、俺が後ろから奇襲をすれば良いんだな」
「いや、それだとブラークが危ないだろう。遠くからものを投げてくれる程度でいい。その隙さえあればあとは俺がどうにかする」
「そうか――」
ブラークが意味深に呟いてくる。
まぁ長いこと一緒にいたわけだからこの作戦がどのくらいの確率で成功するか読めてしまうのだろう。
(まぁ一割もあれば充分すぎるほどだな)
カイ自身も苦笑を浮かべるしかできない。
するとそんなときに誘惑が小さく手を上げてくる。
「そ、その……、私は何を?」
「できれば手を出さないで欲しいんだけど……」
誘惑の不確定要素はないに越したことはない。
でも、彼女はそれでは納得しなかった。
「わかった。それなら私は自分の思うとおりに行動させて貰いますね」
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