第10話

 次の日、朝早くから町を出て行く誘惑ハニートラップの姿を見かけた。

 まさか昨日の今日で本当に出て行くとは思わなかった。

 こういう動きの素早いところが彼女のいいところかもしれないが。


 とりあえずこれで誘惑ハニートラップはとりあえず排除できた。しばらくは彼女のことを気にしなくていいだろう。



「ど、どうかしたの? カイさん、すごく怖い顔をしてるよ」

「そ、そんな顔をしていたかな?」



 危ない危ない……。

 カイは慌てていつもの表情に戻る。



「それより、チルは働き出してどうだった? プラークに何か変なことをされたら言うんだぞ」

「ううん、全然大丈夫。むしろ優しくしてくれてますから……」



(まぁプラークの店なら問題ないだろうな)



「それじゃあ今日も早速行ってみるか」

「うん」



 カイはチルと一緒にプラークの店へと向かっていく。



 ◇



「今日は休みにするか?」



 店に入って早々にプラークが言ってくる。



「どうしたんだ、お前が体調不良なんて言わないよな?」

「俺だって体くらい壊すぞ? まぁ確かに今回は違うが……」



 プラークが拗ねたように呟いてくる。



「休むのは俺のためじゃなくてその子のためだ。お前、その子の服を見て何も思わないのか?」

「そういえばずっと同じ服を着てるな……。同じ服をたくさん持ってるわけじゃないのか」

「お前と一緒にするな! 普通に考えたらその服しか持ってないってことだろ!」

「あっ、いえ。私は毎日干して乾かしていますから大丈夫です……」



(俺がいない時にそんな事をしてたんだな。全く気づかなかった……)



「わかったよ、それじゃあ今日はチルの服でも買いに行くか」

「えっ、いいのですか?」

「あぁ、そのくらい安いものだ。他に欲しいものがあればなんでも言うんだぞ」

「わかりました」



 チルが嬉しそうな表情を浮かべていた。



 ◇



 そして、カイはチルと一緒に買い物にやってきた。

 とりあえず服屋と思ったが、流石のカイも女性向けの服は買ったことがない。


 どんなものを選べばいいのかわからないのでただ、チルの後ろを一緒に歩く。

 もちろんなるべく気配は消しているが、流石に女性しかいないここではカイがいるだけで目立ってしまう。


 これは諦めるしかないだろう。


 カイはため息を吐く。


 するとチルが申し訳なさそうな声を出してくる。



「すみません、私のせいで……」

「いや、どうせ必要になるものだ。一回くらいどうってことないよ」

「とりあえず何枚か選んでみますね」



 それからうんうんと唸りながらチルが悩んでいた。

 その他には何種類かの服が握られていた。



「どの服がいいと思いますか?」

「いや、俺に聞かれても正直わからないな……。ただ一枚に絞る必要はないぞ。いくつか買わないとまたすぐに足りなくなるからな」

「ありがとうございます。それじゃあもっと数を増やしてきますね」



 なんだかチルの目が輝いたような気がしたが……まぁ、気のせいだよな。

 少し嫌な気配を感じながらカイはチルが服を選び会えるのを待っていた。



 ◇



 服を選び終わった後、近くの食堂で昼飯にする。



「たくさん買ってもらった上に運んでもらってありがとうございます」

「いや、このくらい軽いものだ」

「……ははっ、本当にありがとうございます」



 二回もお礼を言われると少しだけむず痒くなる。

 今までお礼を言われるようなことがなかったので……。



「……気にするな」



 言葉少なにそれだけいうと料理が来るのを待っていた。

 すると遠巻きに怪しげな会話をしてるグループがいたので、その声に集中してみる。



「本当に国王暗殺なんてするのか?」

「あぁ、明日、視察にこの街へ出てくるらしい。そのタイミングを狙う」

「でも、そのあとすぐに捕まって殺されるんじゃないのか?」

「いや、大丈夫だ。逃げる手配も出来ているからな。安心するといい」



(なるほど、この国の王を殺そうとしてるのか……。何か嫌な依頼が来てそうだな……。今日はプラークの店に戻るのはやめておくか)



「どうかしたの?」



 チルに声をかけられて意識が目の前に戻る。

 すでに料理が運ばれていたようだ。

 周りに意識しすぎて気づかなかったのか……。



「いや、なんでもないよ。それよりも冷める前に食べてしまうか」

「はいっ!」



 チルが嬉しそうに料理を食べ始める。

 それを横目にカイは再び思考を巡らせることになった。

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