第4話
一応ギルド長バルテルには釘を打っておいた。
あとはちょっと突けば依頼を撤回してくれるだろう。
やはり正体もわからない暗殺者は怖いみたいだな。
ただ、それはカイも同じだった。
(
◇
カイは町外れにある小さな小屋へとやってきた。
ここには有名な情報屋が住んでいた。
名前はアルマ・リーゼ。
(まぁ、有名といっても法外な金額を取ることで有名な金の亡者なんだけどな……)
その分、金のくれる相手のことはしっかり口を閉ざしてくれる、ある意味信用できる相手でもあった。
カイは扉を軽く叩いたあとに中へと入る。
いつもと同じならまず返事は帰ってこない。
だから、大抵の人はここで留守だと帰ってしまう。
これもアルマの策略ではあった。
まぁ、働きたくないから出ない……ということでもあるが。
家の中に入るとそこには色々と散乱した部屋だった。
基本的に紙が散らばっているのだが、他にもゴミなども転がっている。
奥の机で茶色のボサボサの髪をした少女が頬杖を突いて眠っていた。
それもいつもの光景なのでカイはため息を吐いて、彼女に近付いていく。
そして、彼女の側で金貨を落とす。
チャリーン……。
その音が聞こえた瞬間に少女は目を見開いて周囲を見渡していた。
「どこ、どこ、お金の気配が!」
「やっと目が覚めたか……」
「カイ……か、どうかしたんだ?」
気だるそうな表情をカイへと向けてくる少女。
着崩れた服装からは胸がチラチラと見えるのだが、それもアルマの策略なのでそちらには視線を向けない。
「調べて欲しい相手がいる」
「いくら積む?」
「相手の名前は聞かなくて良いのか?」
「……想像は付くわ」
(まぁ情報屋だもんな。そのくらい知っていて当然か)
「とりあえず相手が相手だ。金貨百……でどうだ?」
「まぁそのくらいが妥当ね。わかったわ、引き受けよう」
「それでいつ頃にわかる?」
「もうわかってるわよ。
その辺りは想像が付く。
問題はそこから先の情報だな……。
カイは口に手を当ててアルマの話に耳を傾ける。
「本名はカロリーネ・ミズコリッタ。歳は二十七。今泊まっている宿は貴族御用達のあの宿よ」
この町に一つだけある高級宿。サービスの超一流だが、かかる費用も超一流。
一般人がとても泊まれるような宿ではなかった。
「部屋は三〇四よ。貴方が必要になりそうな情報はこれくらいかしら?」
「あぁ、助かったよ。それじゃあこれを」
カイは二〇〇枚の金貨を渡す。言っていた数字の倍。
この数字にも意味があって、カイ自身の口止め料を含んでいるのだった。
「わかったわよ。貴方ほどのお得意様はいないからね。情報は言わないわよ。
「……言ってろ」
それだけ告げるとカイは情報屋から出る。
あまり長居すると情報を引き出す以上の情報を与えることになってしまう。
ここは必要な分を聞くとすぐに出るに限る。
(情報屋は殺しの冒険者も俺だと言うことを掴んだようだな。まぁそのくらい調べてくれないとな)
◇
カイは次に自宅に戻った後、着替えを済ませて高級宿屋へと足を運んだ。
さすがにここはいつものカイだと逆に浮いてしまう。
だからこそ、それらしい格好をしておく。
ただ、それでも部屋を取っていないと怪しいだろう。
泊まる気はないのだが、宿泊用に部屋を取る。
「いらっしゃいませ。お泊まりですか? 一泊金貨一枚からですがいかがでしょうか?」
「一泊分、頼む」
「かしこまりました。では、こちらにお越しください」
受付の女性に案内されてやってきたのは三〇三の部屋。
偶然にしてはできすぎている。
これは仕組まれたものと思った方が良いだろう。
(俺の正体を知っているわけじゃないから、新しく泊まりに来る人にはすぐ近くの部屋をあてがうようにだけしているのだろう)
ただ、部屋に何を仕組んでいるかまではわからない。
まぁ今回の相手は色仕掛けを得意としているようなので部屋に罠が仕掛けてある可能性は少ないだろう。
(せいぜい、魔法による盗聴や盗撮くらいか……。これは見られている前提で動いた方がよさそうだな)
部屋はかなり広く何に使うのかわからない空間すらある。
(寝泊まりするだけなんだからベッドだけで良いんじゃないのか)
ただ、見られている可能性を考慮するとそれを表情に出すのは得策ではない。
広いベッドに腰掛けたカイは
まぁくることがわかってる色仕掛けに引っかかることがないか。
あとはこの部屋の様子を見られていることくらいか。
それなら向こうから来やすい状況を作ってやるか……。
「それにしても、ギルド長は余計な依頼をしてくる。正体不明の相手をするなんてな」
それを伝えた瞬間に横の部屋からガタッと何かが動いた音が聞こえる。
するとすぐに扉をノックする音が聞こえた。
「はーい、どちら様ですか?」
「となりの部屋の者ですけど……」
カイが扉を開けるとそこにはたしかに
大胆に胸元を開けた服装で、なおかつ甘い匂いすら漂わせている。
「はじめまして、で良いのですよね? Sランク冒険者さん」
「……」
「そんなに警戒しないでください。私たちは敵じゃないですよね?」
「……わかった、入れ」
「はーい」
彼女からしたらうまくいったとほくそ笑んでいるかもしれない。
まず部屋に招いてもらわないと色仕掛けからの暗殺に持ち込みづらいもんな。
そして、彼女はベッドに腰掛ける。
隣に座るように軽くポンポンとベッドを叩いてくるので、カイはそばに置いていた椅子に座る。
わずかに漂わせている殺気のようなものがカイを警戒させていた。
一応今は殺しの冒険者と思われているが――。
「それで何の用だ?」
「同じ標的を狙う仲間なんですから交友を深めようと思いまして……」
「……馴れ合いはいい。ギルド長からの依頼、正体不明の暗殺だったな。何か正体を掴んでいるのか?」
「いいえ、いくら探っても全く……ね。それはあなたも同じよ」
「だろうな。そう簡単に見つかる相手ならランキング一位の座は取れないからな」
「あなたでもそうなのね。わかったわ、また何か情報を仕入れたら連絡を取り合いましょう」
「いや、俺はいい。一人で見つけられる」
「……わかったわ。それじゃあ私は失礼させてもらうわね」
それだけ告げると
(流石にこんな監視だらけの部屋では動けないな)
だからこそ、カイは
◇
適当に部屋で時間を潰したあと、部屋を出て行く。
すると
(おそらくは俺の動向を探って、今後殺すための情報を仕入れるつもりなのだろうな。面倒だし、巻くか)
カイは大通り沿いの人混みに紛れ込む。
「あ、あれっ、ど、どこに行ったの?」
必死に辺りを見渡す
しかし、そのままカイの姿を完全に見失ってしまった。
そして、その場を去って行くのを確認したあと、ため息混じりに家へと戻っていった。
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