第3話
暗殺者ランク……。
殺した人数、依頼の成功率、達成した依頼の数。
それらを相対して、暗殺者ギルドが評価しているランキングだった。
そのうち、ランキング一桁の者達をナンバーズと呼び、その存在を知る者から恐れられていた。
彼らと二桁ランクの者達の間には超えられない壁があり、ナンバーズの中にも一位から三位と四位以下の間にも超えられない壁が存在していると言われている。
一位、
二位、
三位、
四位、
五位、
六位、
七位、
八位、
九位、
それぞれの特徴を呼び名にしているのは、直接会ってものはほとんどいないと言われているからだった。
一部の仲介人だけがその正体を知っている。
ただ、仲介人に手を出しては彼ら自身を敵に回してしまうと仲介人に手を出すものはいなかった。
◇
「ふわぁ……、なんだか寝た気がしないな……」
欠伸を噛みしめながら、カイはいつもと同じようにプラークのカフェへとやってくる。
「おっ、今日は遅かったな」
プラークはカイの姿を見た瞬間にコーヒーの用意を始めてくれる。
見知った仲だとこういった気遣いをしてくれるのでとても助かる。
「あぁ、さすがに夜通し酒を飲み続けるのは予想外だった」
「Sランク冒険者ともなれば金をたくさん持っているんだろうな。羨ましい」
「そんなに持ってても仕方ないのにな」
「そんなこといえるのはお前だけだ。あっ、そうだ。俺の店もついに従業員を新しく雇うことになったんだぞ!」
その言葉を聞いてカイは動きが固まった。
「嘘だろ? この店に従業員を雇うほどの客が来るのか?」
「いや、これから来るんだよ!」
「今も閑古鳥が鳴いているが?」
相変わらず店の中には誰も客がいなかった。
「いつでも大量の客が来てくれたときの準備は必要だろう?」
「……もしかして、食材とかも?」
「もちろん完備しているぞ!」
カウンター奥に置かれた保存用魔道具の中を見せてくれる。
それを見てカイはため息を吐いてしまう。
「そんなに破棄する食材を増やしてどうするんだ……」
「なんで最初から破棄するって決めつけているんだ! それにしっかり捨てないように余ったものは孤児院に寄付してるぞ」
「あぁ、それならその子供達のためになって良かったよ」
「言ってろ!」
いつものように皮肉の応酬をしているうちにカイの前には料理が置かれていた。
「ほらよ、いつものブレンドセットだ。それとこっちが例のやつだな」
プラークが料理とは別に小さな袋包みを渡してくる。
中には金貨が入っているのだろう、その重さで手に取るとずっしりくる。
中身を見ることなく鞄の中にしまい込むと料理を食べながらプラークに質問する。
「そういえばその新しいやつはいつから来るんだ?」
「明日からだな。楽しみにしていると良いぞ」
「そうか……。あとは、前の依頼も終わったぞ」
「……お前は早すぎるぞ。もうすぐに頼む依頼がないな」
プラークが困った表情を見せる。
「いや、いいよ。少し面倒事に巻き込まれそうだからな」
「面倒事? もしかして、別の暗殺者がお前を狙っていると言うことか?」
「なんだ、プラークの耳にも入っていたか」
「これでも仲介人をしているんだ。最低限の情報を仕入れているさ。まぁ、お前を狙うなんて限られているからな。この国で言うなら国王や貴族達はお前には頭が上がらないからな」
プラークがいつも貰ってきている報酬を見ると支払えるのはよほど金を持っている人物になる。
そう考えるとその辺りしか払える人物はいなかった。
「別に報酬は金じゃなくて良いんだぞ?」
「あぁ、わかってるよ。特に力で人に迷惑をかけるやつ……がターゲットだったもんな。今回のマーグの依頼がそれだよ」
「……そうか。その辺りはプラークの采配に任せているからな。それで俺を狙うように指示したやつの正体……わかってるのか?」
「おそらく冒険者ギルド長だな」
「やっぱりプラークもそう思うか……。それなら少しだけお話をしてくるよ」
「気をつけろよ」
「……まぁ、大丈夫だろう」
少し話すだけだからな。
「それよりも他の暗殺者に気をつけろよ。お前の他にナンバーズが複数依頼を受けたときいているぞ?」
「あぁ、そっちは問題ない」
「……それはどういう?」
「それじゃあ俺は少し出てくるな。次の依頼のことは任せたぞ」
料理を全て食べ終えた後、カイはカフェを出て行く。
そして、向かうのは冒険者ギルドだった。
まさか二日続けて冒険者ギルドに向かうことになるなんてな……。
◇
ギルド長バルテルも冒険者ギルドの中で過ごしているわけではなく、仕事が終わると家に帰っていた。
ただ、さすがに昨日Sランク冒険者が殺されたばかり……ということもあり、かなり警戒していた。
腰には剣を携えて、それをいつでも抜けるように手にかけていた。
全く油断を見せない姿勢。
一般人でも集団で現れたら警戒して剣に手をかけて度々驚かせていた。
そんな状態の彼に対してカイはゆっくり他の人同様に横をすれ違う。
複数人ですれ違ったのでバルテルは剣を手にかけてじっくり探るような視線を見せてくる。
他の人と同様にゆっくり歩いて通り過ぎる。
ただ、すれ違い間際に一言呟いておく。
「お前が依頼主か……」
それを聞いたバルテルはぱっと後ろに振り向く。
ただ、そこには怪しい人物は見つからなかった。
冷や汗を拭いながらバルテルは小声で呟く。
「なんだ、幻聴か……」
バルテルは誰もいなくなった通りを青白い表情を浮かべながら呆然と眺めていた。
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