君を忘れたくない
ミント
第1話
君が死んだ。
夏の日のことだ。陽炎が嘲笑うかのように揺れている。そんな夏の日だ。
まるで、引き寄せられるように君を目がけて突っ込んできた車が。君は、車と無骨なビルとの間に挟まれて死んだ。死んだのだ。無力な自分の眼前で。
交通事故。日本でも数多く起こっている事故であり、よくニュースでも見る事故だ。年間で約43万件起こっているとされる交通事故。だが、非日常の出来事のように思っていた。君が巻き込まれるなんて、微塵も思っていなかった。
君の鮮血がつくる、血溜まり。コンクリートを上書きするかのように、呑み込むように、ゆっくりと広がる。その色が、網膜に焼き付いて離れない。視界を塗りつぶしていく。1色に染め上げる。
まるで、時が止まったかのように、1人で立ち尽くす。
緩慢とした動作で降りる運転手が。鳴り響く悲鳴が。耳を聾する絶叫が。焦ったように、ビルから飛び出す人間が。電話に向かって叫ぶ声が。次第に耳に届くサイレンが。
全てが別世界のように。1人立ち尽くしていた。
何かを発しようとして、微かに開いた口が。けれども、何も紡がず語らない。
それからの事は覚えていない。覚えているのは、視界を染めた色のみ。
今でも、君のことが頭の中を飽和していく。写真を、動画を、記憶の中を攫う度に。
人が死ぬのは、忘れ去られた時だと言う。
ならば。それならば。忘れなければ。何時までも覚えていれば。
君は生きている。
君を忘れたくない ミント @kannzakiAoi
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