寸劇
トレアは、まだ十分に発育していない己の体を見せ付けるかのように踊る。
地面に腰を下ろし、左の方がやや曲がっているようにも見える足を大きく広げて未熟なそれを
完全に男を誘い受け入れることを示す仕草である。自分がそういう目的で買われることをトレアは理解していた。だから精一杯主人に媚びを売って、なるべく大事に使ってもらおうと必死だった。主人にとって価値のある奴隷であると示せば、それだけ苦痛も減るに違いないと思っての努力だった。
それどころか、気に入ってもらえなければそれこそ滅茶苦茶にいたぶられて殺されるだろう。トレアにとってはまさに一瞬一瞬が生死を賭けた戦いなのだ。
なのに……
「…もういい。やめろ……!」
自分の前で繰り広げられる艶めかしい踊りを唖然とした様子で見ていた
瞬間、トレアがビクッと体を竦ませ、飛び跳ねるように伏せて地面に頭をすりつけ、
「申し訳ございません! お見苦しいものを見せてしまいました……!」
と必死に謝罪した。自分の踊りが気に入らなかったことで叱られるのだと思ったのだ。
だが、
『なんだ、これ……?』
自身の価値観や感覚と噛み合わず、眼前の光景を脳が処理しきれずにフリーズのような状態になる。
マンガやアニメでは時折見られるような光景かもしれないが、それが現実として目の前で繰り広げられると、混乱してしまう。
「だからやめろ! 普通にしてろ!」
やっとの思いでそう口にしたが、今度はトレアがそれに混乱する番だった。
『普通に? 普通にとはどうすればいいんですか? これが普通じゃないんですか……?』
奴隷であるトレアにとっては、主人の気分を害したならこうやって地面や床に頭をこすりつけて詫びるのが<普通>だった。なのにこの新しい主人は、
『普通にしてろ!』
と言う。この主人の言う普通が理解できなくて、少女はパニックを起こした。
華奢で、ひょろい
パニックのあまりトレアが小便を漏らしたのだ。
それは
『こいつ、漏らしやがった……!』
小便を漏らしたことに加え、異様なまでにガタガタと震える少女の様子に、今度は
「なんだ!? なんなんだよお前! 訳が分かんねえ!!」
こうして主人と奴隷は、街外れの道端で、通りがかった者達からすれば意味不明な寸劇を繰り広げることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます