禁制品

その後、藍繪正真らんかいしょうまは、とにかく近くの川にトレアを連れて行ってそこで体と服を洗わせた。向こうの地球でなら少々憚られる行為だったが、川に行くと同じようにそこで体を洗っている女性などもいて、水だけ汲んでどこかで隠れてとする必要がないと感じたことでそのまま洗わせたのだ。


もちろん、そんな風に人前で体を洗うようなのは、多くが奴隷か、でなければ湯あみができるような家に住んでいない貧乏人ではある。


もっとも、この時、藍繪正真らんかいしょうまは知らなかったが、こいつが買ったような違法な奴隷を他人に見咎められると、場合によっては役人に通報されて捕えられたりすることもある。


禁制品なのだから当然といえば当然か。


幸い、そんな生真面目な奴はこの街にはあまりいなかったようだ。一見しただけなら正規で流通している奴隷か禁制品かの区別はつかないというのもあるがな。


一応、正規品の奴隷にはそれと分かる刺青が施されているものの、違法な奴隷にもそれを模した刺青が彫られていることも多く、実際、トレアにも偽造された刺青が足首に彫られていた。ただし、知識のある人間が見れば一発で偽造だと分かるようなお粗末なものだったが。


とは言え、あちらの地球でも偽ブランド品を持っているからといってすぐに通報されることもないので、それと似たような感覚だと言えばそうか。しかし違法な奴隷の場合は、<偽ブランド品>というよりは<盗品>に近いと考えることもできるため、やはり生真面目な人間なら通報してもおかしくない。


なんにせよ、取り敢えずトレアの体も服も洗えたので、それが乾くまで藍繪正真らんかいしょうまは岸辺に座り一休みすることにした。裸のままで寛いでる若い女性もいるので、トレアも裸のままである。


どうやらこの街の連中は羞恥とかいうのに疎いのだと藍繪正真らんかいしょうまもさすがに悟ったもののいろいろキャパシティをオーバーしていて落ち着きたかったというのもあってとにかく黙って座る。


『これからどうすりゃいいんだ……』


そんなことを思っていると、トレアがまた、


「ご主人様にご迷惑をおかけしてしまって本当に申し訳ございません…」


土下座をしようとした。すると藍繪正真らんかいしょうまは、


「もうそれはいいから。俺に向かって土下座はするな。いいな」


吐き捨てるようにして言った。


「え…でも……」


戸惑うトレアに、


「俺がするなと言ってんだからするな。とにかくそのへんに座ってろ。俺が話しかけるまで何も言うな。俺は考え事をしてるんだ」


とも申し渡して黙ってしまう。


「は…い……」


トレアは混乱しながらも主人に言われた通りにその場に座り、待機した。奴隷らしく次の命令を待っているということだな。


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