低能

『新しい武器は要らんかね?』


声を掛けてきた店主に対し、デインは、


「悪いな、間に合ってんだ」


と愛想笑いを返しながら手を振った。その後ろを、ヘロヘロになった藍繪正真らんかいしょうまが続く。


『どこに行くんだよ……!』


自分をロクに気遣うこともなく引っ張りまわすデインに、藍繪正真らんかいしょうまは殺意を覚え始めていた。


とは言え、今はこいつを頼るしかないと自分に言い聞かせ、殺意を抑える。


まったく。そうやって殺意を抑えられるんだから、向こうでもちゃんと抑えておけばよかったのだ。


もっとも、向こうでは、殺意を抑えておく理由が既になくなっていたんだろうがな。


他人の命などどうでもいいし、しかも自分の親には<凶悪な殺人犯の親>という形で世間から徹底的に攻撃されることを望んでいたのだ。殺して楽になどしてやらない。世間から滅茶苦茶に叩かれて追い詰められて自殺でもすればいいとは思っていたが、自分で殺すのはもったいなくて嫌だった。


世間に対して良い顔をしようとしていたのだから、その世間から攻撃されて壊れればいいと思っていたのである。


藍繪正真らんかいしょうまにとってはそれこそが両親に対する<復讐>だった。


子供を勝手にこの世に送り出しておいて自分達の<良い親ロールプレイング>のための小道具に使うだけの親など、その<小道具であるはずの子供>がやらかしたことで死ぬより苦しい目に遭えばいい。


という形のな。


世間の奴らは、


『親に恨みがあるんなら何で親を殺さない!?』


などと言うが、藍繪正真らんかいしょうまはそういう奴らこそを<低能>と嘲笑っていた。


「恨みがあるから簡単に楽にさせたくないんだよ、そのくらいのことも分かんねーのか、バ~カwwwwww」


とな。


それと同時に、


「赤の他人だからこそ殺しやすいんだろうが。どうせお前らも、見ず知らずの他人の命とか本当に大事になんか思ってないんだろ? 偽善者めwwwww」


とも思っていた。


が、正直、今はそんなことはどうでもよくなっていたようだ。


『とにかくどこかで風呂に入ってさっぱりしてメシを食ってベッドで眠りたい』


だけだった。


するとそんな藍繪正真らんかいしょうまの耳に、


「お、ここだここだ。シケた宿屋だがそれでもメシは出るし体くらいは休ませられるぜ」


というデインの声が届く。


「……」


やっとかと思った藍繪正真らんかいしょうまが顔を上げて見たそれは、


『これが宿屋……? 馬小屋とかじゃねーのか?』


と思ってしまうようなボロくて汚い小屋だった。


さりとてそれも、清潔で小奇麗にしてないと客など寄りつかない現代日本のホテルなどを基準にするからそう見えるだけで、この世界ではこれくらいは<安めのホテル>程度のものなんだがな。


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