グラディウス

人間共も最近は把握しつつあるようだが、実はこの宇宙で起こることはすべて、宇宙そのものに情報として蓄積される。もちろん人間についての情報もすべてだ。


そう、その人間の記憶も感情も心も一切合切すべてだ。


ただしそれらの情報は、<肉体>というインターフェースがないと人間には認知できない。だから死んだ人間の情報には、普通はアクセスできない。


だが、ごくまれにその<情報>にアクセスできてしまう人間が存在する。


それの一部がいわゆる<前世の記憶がある人間>というやつだだろう。そうは言っても、大抵は単なる記憶の混乱による思い込みに過ぎないのだが、そのうちの数例は実際に<かつて生きていた人間の情報>にアクセスできてしまった者なのだ。


転生てんせいした人間>というのも、実はこれに含まれる。別の地球で生きていた人間の情報にアクセスできてしまって、記憶や意識ごと上書きされるのだ。だから厳密に言えば別人なんだが、そこまで行くともはや本人にさえ区別はつけられない。何しろ本人の記憶も意識も完全に保存されているからな。


藍繪正真らんかいしょうまもそれだ。オリジナルの方は肉体の死と共に死んでいる。しかしその記憶も意識も完全にこちらの藍繪正真らんかいしょうまに引き継がれ、そのまま情報も更新されていく。なので厳密には別の存在でありつつ、同時に間違いなく藍繪正真らんかいしょうまその人なのだ。


宇宙に蓄積されたそれらの<かつて生きていた人間の情報>を仮に<魂>と呼ぶのであれば、その魂が現に宿っているわけだし、そもそも人間にはその違いなど認識できんから、まあ、<本人>と言って差し支えない。


これが<転生てんせいの仕組み>だ。だから、宇宙そのものに保存されている情報に確実にアクセスし肉体で再現できるなら、元の世界に帰ることもできてしまう。もっとも、普通はそれができないから帰れないことが多いのだが。


一方、<転移>は、文字通り本人そのものが別の空間に転移することだ。基本的には肉体ごとな。なのでほとんどの場合、こちらは正真正銘、<本人>である。




まあそれはさて置いて、トルカの町に着いた藍繪正真らんかいしょうまとデインを、町の住人は訝しげに見た。この町は旅人や軍が通りがかることもあるものの、大抵はロクなことにならないので、あまり歓迎されないようだ。


とは言え、旅人や通りがかる軍などを相手に商売している者もいる。そういう連中は、上辺だけだが歓迎もしてくれる。あくまで<金づる>としてだが。


と、


「お客さんお客さん、新しい武器は要らんかね?」


通りがかった店の店主らしき老人が、愛想笑いを浮かべながら声を掛けてきた。


なお、藍繪正真らんかいしょうまやデインが携行している剣は、中世ヨーロッパを意識していると思われるフィクションによくみられる<バスタードソード>ではなく、<グラディウス>と呼ばれるそれによく似た、刀身が幅広かつ肉厚の諸刃の剣だった。並の人間では片手では振り回せないだろう。


加えて、グラディウスとしてはかなり刀身が長く、かつ刺突攻撃にも使いやすいようにと考えられてか、鍔の部分はバスタードソードのように<握り>がついていたので、やはり藍繪正真らんかいしょうまがいた地球とは細かい部分が違っていたのだった。


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