第88話 プライベートルーム
「魔王城とは、というかダンジョンはいくら年月を重ねても作りは変わらないようになっている。溢れる強い魔力で変化しないものなのだからな、リフォームも上から重ねるようなものしかできないだ」
魔王城といえどダンジョンと同じだ。魔力の潤沢な土地で、傷すらつかない。グリューネはそんな城に数百年前に住んでいた。なら構造はよくわかっている。
「私はね、孫の創作魔物の発表の前に君を見たんだ。君はなぜか調理場に向かい、なにかの料理を持って、なぜか魔王専用の小部屋に入った。何故なのかな?」
グリューネは指先を弧を描く口元に当て、ある程度は予想がついているようなのにそんな質問をする。彼女は魔王城の作りをよくわかっている。だからこそ、城内でありえない動きをした蘇芳が気になっているのだろう。
魔王専用の小部屋。当然それは一般魔物が入れない場所であるし、魔王が着替えなどを行うプライベートルームだ。グリューネは蘇芳とブランが恋仲であると察して、わざとらしく聞きに来たのだろう。
「俺は、現魔王のブランヴァイス陛下と個人的に親しくしていて、」
「ああ、知っているよ。あの子が君をスカウトしたのだろう? いっそ率直に聞こうか。こちらは恋仲であるかどうかを聞きたいのだよ」
蘇芳の背中に嫌な汗が伝った。グリューネはブランを孫のように思っている。付き合っているとすれば、こんな好意的に接する人でもよく思わないのかもしれない。悪魔の先々代魔王に嫌われるのは単純に恐ろしい。
しかし真実は伝えられない。『恋人でもないのにプライベートルームに入るとは何事だ』思われる。しかしだからといって嘘はつきたくない。
「恋人ではありません。俺なんて弟のような存在なのでしょう。今回は、緊張している陛下の心を少しでもほぐすため、コウの料理を届けたのです」
蘇芳はなるべく嘘はつかない事にした。実際にブランは蘇芳の事を頼れる弟としか見ていない。料理を届けたのもブランがパーティーで失敗しないようにするためだ。プライベートルームに出入りする理由はそれなら許されると思いたい。
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