第86話 とつげきついせきあんしん
『突撃、追跡、安心。そんな彼の売りから、私は彼を【とっつぁん】と名付けました!』
【とつ】げき
【つ】いせき
【あん】しん
だからとっつぁん。相変わらずのブランのネーミングセンスだ。特にかっこつけるわけでなく、分かりやすさや呼びやすさを優先している。なんだかんだでこの名も魔物達に定着するのだろう。
『とっつぁんは侵入者への攻撃、捕縛に特化した魔物です。侵入者を真っ先に攻撃します。絶対に逃さず追跡します。侵入者の捕縛後には拷問までして、侵入者の戦力まで聞き出すので安心して残党を始末できます。もしかしたら拷問でカツ丼を食べさせるかもしれませんね』
蘇芳は少しだけめまいを覚えた。もしかしたら彼が作ったカツ丼のせいでこんな魔物を作ったのかもしれない。別にそれはいいのだが、さすがにブランが規格外の魔王の力を発揮するきっかけとなったからには責任を感じてしまう。
ブランはあのカツ丼の前ではどんな罪でも告白してしまうと言っていた。確かに拷問中にあれを食べたら、頭の中にある情報すべてを吐き出してしまうだろう。
このとっつぁんはブランがすべての知識を吐き出した結果なのかもしれない。
『人型魔物だしそれなりの知能もあります。けれど会話するレベルではありません。そこはまだ未熟なので』
ブランは自らを未熟と言うが、彼女が未熟なら歴代魔王はどうなってしまうというのか。しかしその言葉に突っ込む者はいなかった。
『私からは以上です。これからも魔物創作がんばりますので応援して下さい!』
最後に爽やかにそう言って、とっつぁんを引き連れて舞台裏へと回る。皆はぽかんとしていた。説明が短すぎる。普通は自信のないものこそ多くを語る。それがないということは自信があるということになる。実際はつい先程に魔王辞めるとまで思い悩んで浮かんで案なのだが。
しかし重要なのは真実の魔王より部下達が持った印象だ。彼らが恐れ敬うのならばそれでいい。この誰も何も言えない状況はまさにそれだろう。
「ふう、心配かけちゃってごめんなさい。これで良かったかな?」
舞台裏へと戻ったブランはわずかに滲んだ汗を拭って尋ねる。背後にはとっつぁん。そのとっつぁんに威圧されながら蘇芳は答えた。
「ああ、お前らしい、と思う。無理に攻め込むような魔物じゃなくて、守るための魔物で」
「素晴らしい魔物でした。誰も文句は言えないでしょう」
蘇芳ばかりでなくロゼも感想を伝える。その後ろではパンダゴハンダが可愛らしい仕草で『うんうん♪』と頷いていた。中の人については考えたくはない。
「ありがと。次は個人への謁見だよね。ロゼ、サポートお願い」
「かしこまりました。参りましょう」
次は魔王へのお目通りを願う者達と会う時間だ。ブランとロゼととっつぁんは慌ただしく謁見のために用意された部屋へと向かった。パンダゴハンダも会場に向かい、子供達の相手をする。フラウとベルも手伝いに向かった。
舞台裏に残ったのは蘇芳と撫子だ。
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