第83話 控室にて
蘇芳はカツ丼を持って、ロゼの言っていた控室に向かった。途中会場から盛り上がっている様子が漏れ聞こえる。余興はうまくいっているようだ。
「ブラン、いるか?」
「はいはーい。できたの?」
念の為のノックにはすぐに返事があった。ブランも待ちかねていたようで、軽やかな返事がある。もう悩んでいる様子はなく、前向きに考えているのだろう。
扉を開けると、ブランはまずカツ丼に視線をやる。いつものようにその瞳は輝いた。
「これが今回の料理?」
「あぁ。カツ丼だ」
「美味しそう! こんなのパーティー料理にはなかったよね。わざわざ作ってくれたんだ。ありがとう!」
手抜きじゃないかと言われるのではないかと思っていた蘇芳はその感謝の言葉に楽になった。そもそもパーティー会場にある食材でカツ丼を作るという事自体が工夫なのかもしれない。
控室は小さく、小さな机と椅子、それとロゼの持ち込んだ骨や鱗があった。机には化粧道具がある。泣いていたから化粧直しをしたのかもしれない。それと紙の束もあった。これは新作魔物のアイデアだろう。
ブランは椅子に座り、蘇芳はその前にカツ丼を置く。するとブランは手を合わせた。
「いただきます」
慣れた手付きで箸を持ち、まずは卵と米の部分を食べる。
「な、なんて優しい味なの……」
まずは卵とめんつゆのハーモニーに感動しているらしい。続いてはカツを一切れ食べる。
「さくふわ! さくふわだよ蘇芳君! ボリュームあるサクサクのカツがふわふわ卵に包まれて、さらにはそれを支えるお米! それを一度に味わえるだなんて、満足感がすごい!」
「そ、そうか。気に入ってくれたなら良かった」
蘇芳が感謝するのは材料が揃っている魔王城厨房だ。サクサクのカツを揚げたのはこの城の料理人だし、優しい味だというめんつゆもかなりレアな調味料であるはずなのに揃っていた。これらが無ければブランはここまで感動していなかったはずだ。
「ああ、脂質と炭水化物とタンパク質で本当に満足感がすごい。もう何もいらない、これさえあればいい。狭い牢獄で、このカツ丼を出されたらどんな罪でも告白してしまいそうな…………そうだ!」
突然食レポ中のブランは声をあげる。ついに『アレ』が来たのかと、蘇芳は口を挟まずにいた。
おそらく牢獄というのはこの魔王城という意味なのだろう。魔王城は広いが、魔王という立場に乗り気ではないブランにとっては狭い牢獄のようなものだ。
そしてブランが告白してしまいそうな罪とは、彼女の本性のことだろう。彼女の争いを望まない性格は一部魔物にとっては罪とも言える。
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