第81話 妥協は許さない

「あなたは、新たな世代の魔王なのです。明るく無邪気に、戦争を望まず、しかし過去のどんな魔王よりダンジョンに適した魔物を作ることができる。そんな魔王が別の魔王のマネをしてどうします」


アズールは臆すことなく諌める。以前からそう思っていたのだろう。彼はブランを新たな時代の魔王として認めている。戦争は望まず、人間との共存を望む魔王だ。そんな魔王は過去にいなかったはずだ。


「……確かにそうたな。例えばグリューネ殿のような、好戦的な魔王と創作魔物が被ればブランも好戦的な魔王と思われてしまう。それは避けた方がいい」


蘇芳もアズールの考えに同意した。好戦的な魔王と思われて部下たちまで好戦的になられては困る。ここは新たな時代の魔王として、今までにないような魔物を創るべきだ。

しかしそれがうまくいかないからブランは悩んでいる。


「……ちなみに時間というのはどれくらいあるの?」

「余興をします。まずは私のパンダゴハンダショーで十五分。フラウとベルの吸血鬼漫才で十五分持たせます」


余興。それなら確かに新作魔物発表の前に挟んでもおかしくないし、時間がとれる。かわいいきぐるみショーで盛り上がり、美少女吸血鬼の漫才で笑えるかはともかく注目は集められる。しかし合計三十分。お弁当を作り食べて魔物を考えるには少し厳しい。


「蘇芳、貴方の部下である撫子は手裏剣が得意だろうか?」

「あ、ああ。撫子は投具の扱いはコウで一番だ」

「ならば撫子の手裏剣ショーも追加しよう。あのサキュバスの、クララという娘にも手伝わせて。それで十五分、さらに稼がせる」


撫子の手裏剣。手裏剣ならこの辺りの魔物はあまり見たことがないはずだ。こちらにはあまりコウのものがないため、コウっぽいものはとにかく珍しくうけがいい。意外に機転のきくクララに喋りを任せれば場も持つ。

それだけ魔王登場が遅れたとしても、観衆はそれに気付かないかもしれない。


「陛下、私はロゼと相談し余興の方を進めます。貴方と蘇芳は別の事を。私は貴方の魔物ならきっとどんなものだって好きです。どんなものが創られたって構わない、てすが妥協だけは許せません。せめて稼いだ時間分は貴方が考えてください」


アズールの言葉はとても厳しくあるが、愛情があった。彼はブランの方針に賛同している。ブランの考え方もよく理解した上で言っているのだ。彼はブランの創る魔物を気に入っているようだ。こうしてきぐるみを着ている程なのだから。

アズールはパンダゴハンダの頭部を再び被り、会場へと戻っていった。

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