第80話 きぐるみ巡回
「無理はするかもしれない。けど蘇芳君が自分をよく理解して自分にやれることをやってるのなら、私もそうありたい。戦いが嫌いで出来の悪い魔王かもしれないけど、最初は戦争をしないために魔王になってやろう、って思ってたんだから」
蘇芳は自分の立場を理解している。そして自分にやれることしか言葉にしない。その姿がブランには素晴らしく見えた。
だからブランもそうしたい。戦いは嫌いだった。しかし最初は戦争をしない政策を実行するために魔王になろうと思った。いやいや魔王をやることになる自分を励ますための言葉だったが、それでもその言葉からは逃げたくない。
まずは式典用の魔物創作だ。
「この式典で創られた魔物ってドラゴン多いからなぁ。でもドラゴンくらいじゃないと魔王城の守りにはふさわしくないし。うん、かぶったとしても仕方ないよね。繁殖させる必要はないんだから、考えつく限りのスキルを搭載して……」
ブランはぶつぶつと魔物創作について頭の中にある言葉そのままを口に出す。彼女はやれることをやろうとしている。ならば蘇芳も動き出した。
「料理を食べる時間はあるか?」
「え?」
「俺が必ず料理を持っていく。だからブランはロゼの用意した部屋で待っていてくれ」
「でも、そんな時間は……」
そろそろプログラムが始まる。蘇芳の料理ができるのを待って、それを食べて、魔物を思いつく時間はさすがになさそうだ。
どうやって時間を作るか、悩む暇もない二人の元に巨体がやってきた。
のそりと薔薇の茂みから現れたのはパンダゴハンダだった。
「な、なんだ!」
とっさに蘇芳はブランをかばい立つ。しかしそのパンダゴハンダは布の塊。つまりきぐるみだった。
「あ、パンダゴハンダのきぐるみがパーティー会場を巡回するんだったっけ」
ブランは思い出してそう言う。どうやらこれも魔王ブランを盛り上げるために用意されたものらしい。しかしどうしてきぐるみがひとけのないこの場にいるのか。もしかしたら話を聞いていたのかもしれないと蘇芳は冷や汗を流す。
「時間ならば作ります」
きぐるみから聞こえたのはよく響く美声。蘇芳には聞き覚えがあった。
「その音波兵器のような美声はアズール君!?」
ブランもその声はよく知っているらしい。きぐるみの中に入っているのは、参謀アズールだった。きぐるみは自ら頭部を取り去る。すると美しい顔が現れた。きぐるみの中にいたというのに汗一つかいていない。
そしてアズールならブランの元の性格を知っている。聞かれても大丈夫だ。
「時間ならば作りますので、陛下は妥協せずお考え下さい」
「え?」
「式典用の魔物はドラゴンなどわかりやすく強いものが好まれます。過去の魔物と似ても仕方のないことかもしれません。しかし、あなただけは先代魔王と似てはいけないのです」
確かにアズールの言うとおり、ブランは妥協をするつもりだった。ドラゴンなら過去の魔王が作っているが、強く見栄えもいいので来客はそれで満足する。だからドラゴンで考えを勧めたが、ブランだけはそれをしてはいけないという。
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