第77話 白の薔薇



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それから蘇芳は城の外を。ロゼは城の内部。撫子はクララなど事情を知る者に協力を求めつつ会場内を見張ることになった。

クララもブランの素の性格を知っているから会い次第伝えてくといいだろう。あとはフラウとベル。それとアズールもきっと素を知っている。

フラウとベルはそこらで忙しくしているはずだ。しかしアズールの姿は見ていない。


「……まぁ、あいつも忙しいのだろうな」


アズールは彼なりにブランを慕っているはずだ。なのにいなくなった彼女を探していないというのはおかしいが、彼には彼の、別の仕事があるのだろう。そう考えてみても蘇芳はもやっとする。アズールも慕っているからにはブランの動向ぐらいは見守っていてほしい。少し目を離した隙に見失うとは何事か。などと文句を言いたくなる。同じブランを慕っていて見失ったロゼにはそんなことは思わなかったのに。

時刻は夕方。季節的に昼が長くなった頃だが、もう暗くなり始めている。

会場を出てすぐには薔薇園がある。おそらくは庭師がこまめに手入れしているのだろう。白いバラがあった。


白いバラ、というのに蘇芳はひっかかりを覚えた。この魔王城には禍々しさのある黒い薔薇が多い。聞けば何代か前の魔王がその能力を使って品種改良し、これは魔物らしいとその後も流行らせたという。前の吸血鬼トマトのように。

赤やピンクの薔薇もなくはないが、この魔王城では黒の薔薇はそれ以上に増えていたはずだ。だから白薔薇というものは珍しい。なんとなくという勘だが、蘇芳の歩みはそちらへと向かった。


「……こっちか」


この宴には普段から城によく来る者たちが来る。そして今現在は挨拶に回っている頃合い。誰も庭の花を見ようとは思わない。きっと、ブランもそう考えたはずだ。


薄闇の中、白い花はよく目立つ。おかげでそれを見つけるのには苦労した。少ない光でも輝く金の髪。闇に溶け込むドレス。きらびやかな装飾品。ブランだ。

ブランはドレスの裾が地につかないよう抱えて、しゃがみこんでいた。


「ブラン」


相手を驚かすでもなく、安堵から蘇芳は呼びかけた。しかしブランの反応はない。

どういうわけかブランは人の気配がわかる。彼女が本気で逃げるつもりなら、蘇芳がこちらに勘付いたところで移動しているだろう。しかしこうしてうずくまっている辺り、逃げるつもりはないようだ。


「探していた。ここにいるのはよくない。魔物のアイデアを練るのならロゼの用意した小部屋に行こう」


蘇芳がそう声をかけてしゃがみこんでもブランは反応がない。しかし聞こえているようで顔を上げる。化粧をしていても顔色の青さはよくわかった。大きな目は蘇芳を見るがすぐにふせられる。


「私って、だめな魔王だよね」


しっかりと塗られた口紅からは自虐の言葉が紡がれる。まずはそこを励まさなければいけないと、蘇芳は考える。

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