第73話 受付
フラウとベルが良い提案をしてくれた。確かに忙しくて待ち人と合流できないのなら、片方が一ヶ所にとどまって相手に来てもらえるようにした方がいい。
ここの受付は蘇芳と撫子に任せ、フラウとベルは別の仕事をしつつロゼを探す。もしくは連絡をとれるまで待つか、もしかしたら受付という場所なのでロゼが自分で気付くかもしれない。そうしたら合流しやすい。
パーティ会場の受付という仕事もとくに難しくはなく、信用があればできる仕事だ。
「あ、じゃああたしもロゼさん探しつつお手伝いしとくっすー」
「あぁ、クララも頼む」
そうしてクララ、フラウ、ベルは受付から去り、代わりに蘇芳と撫子がつくことになった。受付の仕事を与えられたというのは二人には良いことかもしれない。彼らはまだこちらの魔物達を知らない。自己紹介されずとも名前を知る事ができる良い機会だ。
「宴とは、どのような方がいらっしゃるのでしょうか……」
「招待客については俺もくわしく知らないが、一族の長はほぼ招待されているらしい。クララがそうだ」
不安そうな撫子に蘇芳は自らの考えを伝える。一族の長とは種族のリーダーだ。各種族は魔王に従ってはいるが、魔王を認めないものもいる。そんな種族のためにこういった宴で長を集め今の魔王の良いところをアピールするつもりだろう。
「あとは有力者とか、この付近の魔物とか。多少仲良くなくても場を賑やかにするために呼ぶんじゃないか?」
「なるほど……」
こういった宴は撫子の経験にはない。彼らの故郷では新年など季節に応じて祝の席が設けられるが、もっとこじんまりとした雰囲気だ。
こちらのような、ステージや楽団を用意したり、一人が主役となるようなパーティはなかった。
「受付はもうやっているかな?」
「はい」
来客に呼びかけられ、蘇芳は返事をしてから顔を上げる。そこには長身でしなやかな体付きの女性がいた。褐色の肌に銀色の髪。瞳は深い緑。そして銀の髪に埋もれるようにして、牛のものに似たツノがある。ドレスの色は深いグリーン。褐色の肌によく似合う色だ。
「やあはじめまして。私はグリューネと言う。ブラン魔王陛下にプレゼントを持ってきたのだが、こちらにあずけていいのかな?」
「はい。おあずかりします。こちらにお名前を」
「うむ」
繊細で女性的な見かけとは違う凛々しい口調に少しだけ驚きながら、蘇芳はグリューネの持つものを見た。意外なことにそれはクマのぬいぐるみで、花束が添えてある。大人の女性が大人の女性に贈るプレゼントだとは思えない。しかし来賓にそんな事を言うはずがなく、蘇芳は無言でクマを受け取った。
撫子はグリューネの名が書かれるのを眺める。きっと彼女も一族の長なのだろう。堂々とした字だ。
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