第69話 コミュ力の欠如
「神は、よくわからないな。昔からの行事とかは大切にしたいし、誰も見ていない所であっても善行を心がけようとはおもっているんだが」
「俺には神がいる」
頼むから会話のキャッチボールをしてほしいと蘇芳は思った。しかしアズールとしては蘇芳が神を否定しないため自分の神について語ってもいいと思えたのだろう。淡々とした様子で続ける。
「五年前に出会った神だ」
「五年前?」
「その神に出会い、俺は魔王軍に仕えると決めた」
「へ、へぇ……」
蘇芳は当たり障りのない相槌をうつ。そういえば中立のエルフがなぜ魔王軍にいるのかと思っていたが、彼は信仰のため魔王軍に所属したのだろう。しかし魔物に神はいないはずだ。なにせほとんどが動物的であるし、自分の獲物さえなんとかなればいいという種族が多いからだ。
気付けばアズールの表情は優しいものとなっていた。それを見て蘇芳は考えを少しだけ改める。彼はその大切なもののために動けるような、親近感を持てる人物のようだ。
「神とは、ブランヴァイス魔王陛下の事だ」
「……え?」
「なので俺はあの方の邪魔をする奴は排除するつもりだ」
温かみがあったはずのアズールの視線がすっと冷たくなった。どうやらアズールはブランを好いていて、蘇芳に釘をさしているようだ。
蘇芳はブランと親しげだ。十年近い付き合いだが、アズールや第三者はそれを知らない。ならば蘇芳の態度は魔王になれなれしいものに思えるはずだ。
だから敵視してこれ以上蘇芳がブランに対し図々しい振る舞いをせぬよう、『邪魔をする者は排除』という言葉を使った。
とんでもない愛されっぷりだ。アズールならばブランと恋人になろうとしてもおかしくはないのに、それをしない。彼女の敵のみを排除するというのは、確かに神のように思っているのかもしれない。
「……わかった。今日はありがとう」
蘇芳はさされた釘については触れず、今日のことの礼を改めて言う。
蘇芳にだってブランの邪魔をしているつもりはない。むしろ協力しているつもりだ。
しかしそう伝えたところでアズールはその言葉を信じない。彼はブランの信者なのだから、その他の言葉を信じるはずがなかった。
荷物をまとめ、蘇芳は自分の部屋へと向かう。若干もやっとした気持ちも抱えている事に気づいたのだった。
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