第66話 箱

「しかしそれにしても箱が多いな……」

「ほとんどがなでチャン用のものっすね。女の子は靴からアクセまで色々必要なんすよ。でもそれにしてはドレスサイズの箱が多いような。三つはあるような」


部屋中に敷き詰められた箱を見て、蘇芳はぐったりとしてきた。今はどれが自分に与えられたものなのかがわからない。しかし包装からブランドの察しのつくクララはそれを整頓していく。

大きなドレスの箱が三つ。靴らしい箱が二つ。細かいアクセサリーの箱が複数。

一方蘇芳のものはスーツと靴の箱二つだけだ。

淡々とした様子でアズールが答える。


「陛下は撫子の趣味がわからないからと二つ選んだ。もう一つはロゼの推しドレスだ」

「え、ええと、洋服はサイズがあると思うのですが……」

「ロゼは服の上からでもサイズがわかる」


撫子は小さく悲鳴をあげかけてしまった。吸血鬼で魔王の側近であるロゼは女性が好きだ。あの淑女のようで捕食してきそうな目を思い出すと背筋が冷える。

とにかくそんなロゼだからこそ見ただけで撫子のサイズがわかるらしい。そしてブランは妹を気遣うようにドレスを二着用意したのだが、ロゼは単純にこれを着てほしいからと一着用意したらしい。その執念がすでに怖い。


「三種類もあるんすか。あれ、このアクセの箱はこのブランドのリニューアル前のやつ。しかもきっちり包装されてない。つーことは陛下のお下がり?」

「これらの品は陛下の廃品処分も兼ねている。返さずそのままもらってほしいとのことだ」


目ざとく気付くクララにアズールは説明を追加する。ドレス三着というのも豪勢な話だが、ブランの持っていたいらないアクセサリーなども撫子に与えられたのだろう。クララが目を輝かせているためそれらがとても価値のあることだとわかる。値段もだがくれた相手というのも大きい。

この部屋にどれだけ金目のものがあるのかと考えると撫子は目眩を覚えた。

コウは質素倹約な国柄だ。こんな豪華なものは見慣れない。


「そんな、受け取れません」

「もらっておけばいいんじゃないすかねー。なでチャンはもっと着飾った方がいいと思うっす。お給料貰っても全然使ってないみたいだし」


クララは改めて撫子の服装を見た。現在の彼女は部屋着という事で簡単な着物姿だ。品はいいかもしれないが、若い娘らしさが足りない。自国の文化を大事にするのはいいことだが、こちらの服装も試して見てほしい。

似たような事を蘇芳も思っていたのだろう。彼も質問する。

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