第65話 就任十周年記念パーティ

「……違う」


愛想のない箱男の声はより不機嫌そうなものとなる。とりあえずこの部屋には三人もいる。対する箱男は一人。もしも不審者ならもう諦めているだろう。


「魔王陛下からの届け物だ」


箱男の言葉数が少ないせいで妙な誤解をしてしまった。箱はすべて魔王からの贈り物だったらしい。三人は青ざめる。ブランなら気まぐれにこんな事をしてもおかしくはないのに、使いの人を不審者扱いしてしまった。


「あのっ、誤解してごめんなさい。とりあえずベッドに置いてもらえたら」

「ああ」


机も椅子も使用中だ。ものによっては床に置いても良かったのだが、撫子は高級そうな包装を見てベッドに置いてもらうことにする。

箱がなくなり、横や後ろから見た男は美しかった。

流れるような金髪に白い肌、そして女性と見紛うような美しい顔。とんがった耳に、貴族のような服装。


「……もしかして、エルフのアズ様っすか?」

「アズという名ではない。アズールだ」

「アズ様じゃないっすか! 魔王軍参謀で、腕を伸ばせば壁ドン、指を動かせば顎クイ、滅多に聞けない声は音波兵器のアズ様じゃないすか!」


クララにそんな事を言われて、アズールと名乗る箱男は身動きとれなくなった。壁ドン顎クイ音波兵器は彼も知らない。しかし蘇芳達は納得する。確かにどんな動きや仕草も様になる美形だ。

しかも参謀ということで、かなりの知識を持ったエルフなのだろう。


「そういえば、何度かこの宿舎ですれ違った事があるな」

「はい、私もです」

「俺は蘇芳という。それにこっちが撫子で、そっちがクララ」


決してまったく知らない相手ではない。しかし名前や素性を知らないため警戒してしまったので、蘇芳は改めて簡単な自己紹介をする。しかしアズールはこちらの事をよく知っているようで、頷いただけだった。


「近々魔王城でパーティー、宴がある。ここにいる三人はそれに招待されている」

「そ、そうだったのか」

「陛下から宴用の礼服を預かってきた。ほぼ撫子のものだが、蘇芳のものはついでにここに置いておく」


アズールは言葉数が少ないため少しずつしか理解できないが、率直ではある。

どうやら宴に招待されて、そのための礼服を魔王が用意し、部下でありこの宿舎に住むアズールが伝言と荷物を届けに来てくれたらしい。


「宴というのは?」

「ブランヴァイス魔王陛下、就任十周年の祝いだ」

「おお、それは喜ばしいことだな。ぜひ参加させてもらおう」


蘇芳はブランのこれまでの功績を喜んだ。この宴は彼女が十年間がんばってきた成果だ。その苦労を蘇芳はずっと見てきた。

そういえば、魔王は十年務められればその後安泰だという。なので十年を期に祝うらしい。

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