第64話 アポなし訪問

「その話というのはどの話だ?」

「いろいろっす。陛下の本当の性格とか、魔女の成り立ちとか」

「性格については君はすでに『無理してる』って気付いていただろう。魔女の成り立ちだって調べればわかる事だ。……というか、人型の魔物というのはほとんどが魔女のようなケースで生まれたんじゃないかという説がある程だ」


自分達魔物がどうして生まれたかなんて考えたことがないのが普通だ。クララも撫子も納得したが、それでも思っていたより驚いている。

高い知能を持つ人型魔物。それは元が人間だったから。人間が魔力により変化して魔物となる。

魔女のような事が各地で起きたというのが研究者の考えだ。とくに隠すような話でないし、自分達も人型なので知っておきたいことでもある。


「……まぁ、そういうわけで魔王陛下は苦労しているから助けてあげてほしいという話なんだ」

「あ、そういうことなら了解っす」

「わかりました」


蘇芳は話をそうまとめた。ブランは性格に似合わないのに魔王として担ぎあげられて苦労している。助けとなれるのは事情を知っている者だけ。ならばクララも撫子も異論ない。しかし壮大な話を聞いてどっと疲れて茶を飲む。口の中がさっぱりとした。


その時、また部屋のノックがあった。

しかしここは撫子の部屋。出入りするような人物は蘇芳とクララのみで、二人はすでに部屋の中にいる。

撫子と蘇芳は無言で顔を見合わせた。そして警戒して撫子が声をかけた。


「どちらさまですか?」

『アズールだ』


知らない名前だった。それに低い男の声だ。

それに不快感をあらわにしたのはクララだった。


「なんすか、女の子の部屋にアポなしでやってくるなんて、ろくな男じゃねーっす。おにーさんちょっと出てやってください」

「承知した」


若い娘の部屋に何の連絡もなしにくる男なんて信用ができないと、保護者気分の二人はわずかに殺気立つ。宿舎全体としては男女どちらも入れるものの異性の部屋への出入りは禁止されている。だからよからぬ考えを持った男がいてもおかしくはない。そして念のために蘇芳が出る事になった。

いざというときは相手を投げ飛ばせるよう構えてから扉を開ける。


そこには箱があった。


「届け物だ」


声だけがする。箱が喋っているかのようだった。

しかし実際は長身の男が箱を顔が隠れるまで積み重ねて持っているだけだ。


「届け物って、ナデちゃん通販でもしたんすか?確かにタヌキツネットは過剰包装なとこがあるっすけど」

「そんな、通販なんてしていません。それもこんなに」

「じゃあ宅配業者を装った不審者っすね!」

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