第63話 粘着質な魔女

「当然ブランは魔物を創ったことで次期魔王として祭り上げられた。魔女達が自分の望みを叶えるために」

「……そういや魔女の人達って、どこか粘着質っすよね。陛下はそういうとこないように見えるけど」


クララの知る魔女は粘着質で、それは蘇芳も間違っていないと思う。魔王候補になったブランへの期待は凄まじいものだったらしい。まだ幼い彼女を魔王立研究所に預けたりして魔王になるための教育を施したという。しかし魔女達が粘着質というのは理由がある。


「魔女とは何千年も昔には人間だったらしい」

「え?」

「大昔、ダンジョンを奪いあい人間の一団と魔物が戦っていた。そしてその一団が勝利して、男達は王に報告に向かった。しかし王と報酬交渉で揉めたのだろう。王は男たちを裏切り者とし、殺された」

「えっ、えっ?」

「残った女達はダンジョンに籠城し魔石や魔道具を駆使して戦った。国王軍の残党狩りや、ダンジョンを奪い返しに来た魔物達と何年も戦い続けたんだ」


それはクララも知らないような話だった。人間の話だとはいえ言葉が出ない。つまり一団がせっかくダンジョンを制圧したというのに、王はダンジョン生み出す利権に目がくらみ、ろくな報酬を与えず、それどころか殺してしまったのだろう。

そして制圧したばかりのダンジョンの留守を守っていた女達も狙われる事になったが、魔石などの力で撃退。魔物が来ても撃退。

そうして助かった女達の末裔が魔女だという。


「女達は何十年もダンジョンで暮らし戦った。そのうちに肉体に魔力がやどり魔道具のようになってしまった」

「あ……」


撫子は小さな声を上げた。ダンジョンにある物はその場の力のせいで長い時間をかけて変化していく。魔力が結晶化して魔石が生まれ、道具は魔力が帯びて魔道具となる。

それと同じことが人間にも起きたのだろう。籠城するうちに女達の体に魔力がやどった。


「そして世代が増すほどに魔力は強くなり、彼女たちは自らを魔女と名乗る事にした。少しでも身を守るため魔王軍に参加した。もう人間には戻れない。人間を恨んでいるところもある。しかしだからといって他の魔物達にとっては魔女達は元人間だ。自分の仲間とは認めない。孤立していた時期が長かったんだ」

「そりゃあ……粘着質になっても仕方ないっすね」


おとぎ話のような蘇芳の言葉に撫子もクララもうまく言葉がでなくなった。

魔女はその生まれが不幸せなものであったし、ずっと気を張った歴史を歩んでいた。現在人間とは決別し魔物として歩む決意はしたものの、それでも悪質な魔物は魔女を元人間の裏切り者とするかもしれない。恨みは深く、簡単に消えるものではない。

魔女達がブランに期待するのは仕方のないことだった。


「ていうかその話、あたしが聞いちゃっていいんすか?」


とんでもない事を聞いたとクララは思う。サキュバスの長とはいえ、魔王の秘密を知ってしまった。

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