第62話 魂の親子
クララが気になっているのはブランの振る舞いだ。どう考えても魔王が『友達の様に接して欲しい』と部下のクララ達に言うのは無理がある。明るく人懐っこい性格だが、どこか無理をしているようにも見える。
「あいつは……本来そういう性格じゃないんだ。暗くて、後ろ向きで、本の虫で、優しい」
蘇芳にぽつりぽつりと語られるブランの性格は、魔王にふさわしいものでなかった。
暗いのは魔王なので構わないかもしれない。後ろ向きも慎重ならリーダー向きだ。本の虫も知識があるということだ。ただし優しいは、一見褒め言葉のようで魔王向きではない。それは戦いを望まないという事だ。
「……だから、陛下はあんなふうに振る舞っているんすね」
「ああ。『明るく人懐っこいけど底が知れない強者』のように振る舞っている。あまりにも魔王らしすぎると戦争賛成派が勝手に盛り上がるし、あまりなめられるような性格じゃ上には立てない。そう演じるのが一番楽なんだろう」
クララと撫子は納得した。普通の部下は親しげな魔王には引く。仲良くなんてなれるはずがない。何か裏があるのでは、と思ってしまう。ブランはそれを狙って、わざと明るく親しげに振る舞っている。本来は根暗らしいのに、そう振る舞うことで『ただ者ではない』と思わせているのだ。
「二人は魔王のなり方を知っているか?」
「確か、魔物を創造する能力を持つ人がなれるんすよね。初代の魔王がそうだったから、魂の親子ってことで次の魔王は種族関係なく作れる人が選ばれるという」
「あぁ、任期は最長で百年。リコール……任期途中の解職要求も可能だ」
これも撫子のため、蘇芳はわかりやすい説明を心がけた。魔王は能力の持ち主により引き継がれる。それだけ魔物を創作するという能力を持つものは少ないという事だ。
百年に一度現れるような才能と言っていい。それだけ稀有なものなら途切れてもおかしくはないが、長命な魔物もいるので途切れなく魔王の存在は継がれていた。
「あいつは子供の頃、根暗で本ばかり読んでいて友達がいなかったから、なので魔物を友達として創ったらしい」
「……まじすか」
クララは目を見開いて驚いた。魔物創作の能力というだけでも珍しいのに、それを『友達が欲しいと願うような少女時代』にやってみせたというのは驚きだ。魔女の年齢感覚は鬼ともサキュバスとも違うとはいえ、過去の魔王だってそんな早くからできるものではない。
「だからかブランの創る魔物はどこかゆるいんだよな。でもそんなゆるキャラ魔物を作ったにしても魔女からしてみれば快挙だ。どの一族だって魔王を輩出したいんだから」
蘇芳は彼女の作る魔物を思い出しながら言った。種族も性別も年齢も関係なく、能力さえあれば継がれる魔王の座。ならばどの種族も考える事だろう。自らの種族から魔王が生まれ、自分達に有利なよう魔王軍を作ってほしいと。
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