第61話 後のタピオカである

なんでもよく食べるクララは見知らぬ食べ物であっても蘇芳の作ったものということで興味津々だ。そして迷いなく一つ口に入れた。


「むむっ、これは新食感! むにむにとしてちょうどいい硬さで優しい味、それに小豆の豊かな風味と上品な甘さと合わさって極上のスイーツっすね!」


クララによる食レポ。つまり気に入ったということだ。


「ケチつけるわけじゃないすけど、これに生クリーム乗っけたらもっと美味しくなる気がするっす!……いやまてよ、この白玉を黒くして、甘くて濃いミルクティに入れたらぜったい美味しいっす!」

「あぁ、今度試してみようか」

「もしかして、これが魔王様も感じたというひらめきなんすか?」

「それは違うと思うぞ」


クララはつい食べたことのないスイーツにより新メニューがひらめいてしまった。それは食べたことがないものを食べたからであって、蘇芳の作る料理だからではないだろう。

しかしひらめきとはきっとこういう感覚なのだろう。魔王はこれを何度もしなければいけない。それはやはり大変な仕事だとその場にいた者は思う。


「魔王陛下のカンヅメは、次はいつなのでしょう」


撫子は魔王を思い出し、そんな質問をした。また魔王のカンヅメが始まれば蘇芳と撫子の出番だ。


「できればない方がいいカンヅメだが、俺達に仕事があれば撫子の手鏡に連絡があるはずだ」

「あ、そうですね。ないにこしたことないです。連絡があればすぐに蘇芳様にお伝えしますね」


蘇芳は最近連絡手段を失ったので、何かあれば撫子の手鏡に連絡がある。しかし本来カンヅメとは魔王がスランプに陥るために行われるものなので、ないにこしたことはない。その場合、蘇芳と撫子はタダ飯食らいになってしまうが、ブランが苦しむよりはいい。

そう考える蘇芳の顔つきは落ち着いていて、クララは前から気になってた質問をした。


「そういや聞きたかったんすけど、結局おにーさんは魔王陛下とどういう関係っすか?」

「え?」

「あ、恋人かどーかは聞いてるんじゃないっす。こっちはなんとなくただれた関係ではないってわかるんで。無理してそう見えるよう振る舞ってるおねーさんと弟、ってかんじに見えるんすけど」


クララはサキュバスなので男女二人の会話や視線や触れ方で関係はおおかたわかる。それが当たっているので蘇芳は照れもせず頷いた。


「姉弟という感じだと思ってくれていい。俺が子供の頃からの付き合いで、向こうはその時には魔王だったからな。確か、あいつが就任直後にコウに来て出会ったんだ」

「へえ、じゃあ十年くらいすね。でも、なんでも陛下はあんな無理してる感じがあるんすか。いや、あの性格あたしは好きっすけど」

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