第60話 白玉ぜんざい
つまりこの宿舎には本来の種族の拠点から離れた者がやってきているのだろう。蘇芳や撫子や、そのエルフのようなケースもあれば、魔王城で働きたいという思いからここに来た者もいるはずだ。
「しかしエルフが集団生活してるとは。問題とか起きないんすかね」
「問題?」
「エルフってのはすごい美形揃いで、けどあんま群れないからコミュ力低くて……つまり会話がド下手で、恋愛のいざこざに巻き込まれがちなんすよ」
美形ならばそれだけで勝ち組と思われがちだが、エルフはその種族の育った環境からうまくあしらえず泥沼化しやすいのだろう。
そんな人物が色んな種族のいる宿舎に居れば揉め事は避けられない。親切にしたら『あの人は自分に惚れている』と勘違いされ、冷たくすれば『顔がいいからって調子のってる』と思われる。
そんな人物とは挨拶すら難しいのかもしれない。種族を理解さえすればいいだなんて思っていた撫子は自信がなくなった。
会話が一段落してから、撫子の部屋にノックがあった。
「蘇芳様ですか?」
『ああ、開けてくれるか?』
扉の向こうからそんな声がして、撫子はすぐさま扉へと向かった。多分、蘇芳の手はふさがっている。クララと勉強中の撫子のため、お茶を持ってきてくれるという話だからだ。
「そろそろ休憩してはどうだ? 白玉を作ったんだ」
扉を開ければ着流し姿で茶道具と菓子を両手に持った蘇芳が居た。白くつややかな白玉に撫子は急激な空腹を覚えた。新しい事を色々と覚えたせいか、思っていたより疲れている。
「ややっ。おにーさん、あたしも頂いちゃっていいんすか?」
「当たり前だろう。撫子の勉強に付き合ってくれたんだから」
「えへへ、実は期待してたりして。男を夢中にするサキュバスを逆に夢中にさせるなんて罪なおにーさんすねー」
「そういう言い方はやめてくれ」
クララはすっかり蘇芳に胃袋を握られていた。蘇芳も面倒見がいい性格なので悪い気はしない。
一方慣れてる撫子は机を片付け、予備の椅子を出す。そして自分はベッドに座って、白玉を受け取った。備え付けの椅子に座ったクララは見慣れない菓子の皿を渡され凝視する。
「これは?」
「白玉だ。餅に近い。餅は知っているか?」
「グミとかマシュマロみたいなあれっすか?」
「そんな感じだ。これは小豆……豆を甘く煮たのと一緒に食べる」
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