第59話 宿舎生活

魔物とは本来ダンジョンに住む。しかし蘇芳達のように各地に向かう魔物や、魔王城に住む魔物のため宿舎が用意されていた。一人一部屋に家具付き、共同スペースが各種有り、質素な暮らしに慣れていた撫子には豪華なくらいだ。

そして何人かの魔物とすれ違う事があるのだが、相手のことをしらないため撫子はうまく会話できない。向こう側からしてみても同様なのか積極的に関わることは無い。その壁をなくしたいと思う撫子は、まずは相手を知りたいと思った。


「んー……軍とはいっても、うちらはわりと雑な構成してるっすね。一番上が魔王で、その側近たちが魔王の代理したり。その次が各種族のリーダー、長がいるっす。で、魔王が長に命令して、長が一般魔物に命令しているかんじっす」

「そんな簡単なのですか」

「そうっす。ちなみにこのあたし、クララちゃんはサキュバスの長だったりするんすよ」

「わぁ……」


どや顔で言ったクララに撫子はぱちぱちと手を叩いた。多分長というのは鬼の当主のようなものだ。きっとクララはこのけだるけな雰囲気に反して仕事はこなす。だから前回の案内役に選ばれたのだ。ちなみに撫子はサキュバスがどういう種族かはまだ知らない。


「長は魔王陛下に命令とお給料を貰って、それを皆に分配するかんじっすね。けどそういうことができる魔物は全体を考えれば少ないっす」

「少ない?」

「人型の魔物は賢い……って決めつけんのは差別かもしれねっすけど、やっぱり人型の魔物は賢くて給料計算できるから、各長に任せる事ができるっす」


撫子は前回のダンジョンを思い出す。シルクウサギにホネトカゲなど、仲間の吸血鬼であっても人型であれば襲う程の知能らしい。しかしその魔物達は給料や住居など、どうしているのだろうと撫子は気になる。


「計算のできない魔物はどうするのですか?」

「適当に近くの人型魔物が計算して、現物支給してなるべく不満ないようにするかんじっすね」

「なるほど……」

「この宿舎に住んでるのだってほとんど共同生活できるレベルの知性がある人型魔物っすよね?」

「あ、はい。耳のとんがった人とか」

「あー、エルフの方っすね。いや、きちんと言うとダークエルフでいいんだっけ」


得る符。抱く得る符。なんだかよくわからないが景気の良さそうな種族だと撫子は思うが、もちろん違う。


「エルフってのはめっちゃ長生きでめっちゃ賢い種族っす。一般的には中立で、人間にも魔物にも味方しないんすよ。でもたまに魔王軍に協力してくれるエルフもいて、そーゆーのをダークエルフと言うっす。まぁ人間が名付けた名前っすね」

「そうでしたか。しかしなぜ、魔王軍に協力を?」

「んー……こればっかりは本人に聞かなきゃわからないすけど、人間に村を焼かれたとか、そういう恨みかもしれないっすー」


はっとして、撫子は視線を落とした。この宿舎でよく出会うあの人も恨みを持っているのだろうか。彼らは敵の敵である魔王軍に所属したのだろう。復讐とはあまりよろしい事とは思えないが、わかる気もする。何か大切なものを失えば、故郷を捨ててどこかの勢力に加勢するかもしれない。

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