第58話 裸道


「ではこの北の、裸道という国は?」

「ラドゥすね。これは宗教の国ってかんじであまり魔物がいないっていうか、あんまり龍脈がないし、その龍脈も人間が占拠してるって話っす」

「らどーには魔物がいないのですか?」

「あ、いや、よくわかってないかんじすね。ただ、魔物の数が少ないのは間違いないっす」


北の国ラドゥ。そこの事はクララでもよくわかっていないらしい。魔物の数が少なく、こちらに伝わってくる話自体が少ないからだろう。

故郷を懐かしむように、撫子はため息をついた。


「なぜどの国の人間も魔物と共存しないのでしょう。確かに人間からしてみれば我々魔物は恐ろしいかもしれませんが」

「あー……コウは共存してるっすね。うん、あたしらサキュバスにとってもそれは理想っす。でもそううまくいかないのが人間と魔物で、コウの人間と魔物もずっと苦労してたんじゃないすか?」


ずばり言ったクララの言葉に、撫子は返事をせずうつむいた。彼女の主、蘇芳は鬼の一族の次期当主だった。しかしそれは婚約者と結婚する事が条件で、その婚約者は同じ鬼でありながら魔物を倒す事に長けている一族だという。人間側からの信頼を得ている彼女だからこそ、嫁入りさせた男を鬼の当主と認めるつもりだったのだろう。

その条件を、ある程度両家は了承していた。それはコウの国で人間と魔物を共存させるためだ。


「勿論共存するって言ったって、問題は起きるものっす。それに自分達だけ得したいって思うものでしょーし」

「そう、ですね……」


撫子は蘇芳の心情を思い瞳を伏せた。蘇芳もまた、共存のため政略結婚をするはずだった。それが鬼やコウのためになると信じて。けど、婚約破棄してこの大陸へ渡った。

鬼の一族はとにかく兄弟が多いため、跡継ぎについては心配がない。人間寄りの一族の適齢期の女性も多いので、そのうちの誰かがくっつけば政略結婚は成立するだろう。しかし蘇芳の結婚こそが最善だった。少しは揉め事もあるかもしれない。


「次行きましょっか。魔王軍の話で聞きたい事あります?」

「あ、では魔王軍の構成についてお聞きしたいです。この宿舎に越してから、いろんな魔物の方と出会うのですがどの方ともうまく話せなくて」


二人が現在暮らしているのは魔王城近くに設置された宿舎だった。

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