第33話 効果:ひらめく


料理上手なだけで魔物がひらめくメニューが生まれるだろうか。ブランは魔王という立場で美食を食べ尽くしているはずだ。ただの料理上手というだけでひらめくとは思えない。では異国の料理である事が重要なのか。ロゼは真剣に考える。

魔物創作にひらめく料理があるのなら、ぜひとも自分が作りたい。そして魔王をひらめかせまくり、蘇芳の出番を奪ってやりたい。ロゼはそんな事まで考えていた。


「その料理、わたくしにも作る事ができるでしょうか?」

「ロゼが? うーん、君はなんでもこなすからできるだろうけど、蘇芳君に教えてもらえば」

「あっ、それは生理的に無理なのでもういいです」


ロゼはあっさりあきらめた。嫌悪している者から教えをこうほど嫌なことはない。


「蘇芳君、教えるのもうまいと思うけどな。私も彼に教わっておにぎり作ったらすごく美味しかったし」

「ブラン様が、お台所に!?」


飛び上がる程にロゼは驚いた。ブランはほぼずっと誰かを使う立場だった。自ら料理を作ろうなど思うようになるはずがない。しかしそれをやらせたのが蘇芳だ。


「おにぎりは簡単なんだよ。ご飯炊いてもらって、タヌキとキツネの商人からノリと梅干し買って、すぐできるから」

「ウメボシ?」


タヌキとキツネというのはコウ出身の魔物だ。本来は動物の姿をしているが、人に化ける事ができ、タヌキツネットという、人も魔物も国境も関係なく商いをしているという。中でも一番の売れ行きはコウの食品だ。この商人達がいればいつでも故郷の味が再現可能と評判だった。

なのでブランもそれを利用した。


「梅干しっていうのは酸っぱい実を塩漬けにしたやつかな。食中毒を防ぎやすいそうだから、蘇芳君のお弁当にもよく入ってるの」

「食中毒って、ブラン様は毒無効ではないですか」

「だからって腐った食べ物は食べたくないよ。酸っぱい実と塩だから疲労回復効果もあるみたい」

「疲労回復って、ブラン様は自動回復スキルをお持ちではないですか」

「そういうものじゃないの、スキルあっても食べたいものなの」


いちいち突っ込むロゼにブランは子供っぽく反論した。やはりその弁当とは特殊効果のあるアイテムではなさそうだ。聞いた効果ではブランのスキルと重複している。それにひらめく効果というのもどうやって付与するのだろう。


「私の創った魔物で、パンダゴハンダっているでしょ?」

「はい。あの白黒の熊で、攻撃力防御力ともに高く、ブラン様の作品の中でも一二を争う強さの魔物ですね」

「あれ、自分で作ったおにぎり食べてひらめいたの。作り方を聞いて教わった私が作ったおにぎりでもひらめいたんだから、すごいことじゃない?」


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