第32話 十年前
そんな環境である鬼族の蘇芳が、ブランに興味を持つとは思えない。
「そこはほら、鏡とか、珍しい魔道具で気をひいたってかんじかな。幼い子供なんて好奇心旺盛で新しいもの好きなものだし」
「ですね。コウはあまり魔力を使った文明が発達していません。魔力は肉体強化に使う事が多いそうですし。魔力のこもった鏡なんて珍しかったでしょうね」
「うん。で、そのうち相談に乗ってあげたりしてね」
「まんまと幼い少年を籠絡し、カンヅメするたび連れ込む今の状況に至るというわけですね」
「……その言い方やめて」
鏡を通して地道な会話を重ねて、ブランは蘇芳の信頼を得たという事だろう。付き合いは浅いかもしれないが、そんな関係なのだからこれからよく顔を合わせるだろくロゼも蘇芳に対して好意的に接してほしい。しかしそんなブランの願いは叶わず、やはりロゼは眉をつり上げたままだった。
「それでも、ブラン様があの馬の骨を重用なさる理由がわかりません。それも鏡を通じて、秘密裏に。確かにブラン様が命じれば黒い仕事でさえするような輩ですが」
「黒い仕事なんてさせないよ。私のカンヅメ中にお弁当持ってきてもらって、アドバイスしてもらうだけ」
「……その仕事に意味があるようには思えないのですが」
前回のカンヅメに同行できなかったロゼにはわからない。話を聞いてもわからない。なぜ蘇芳のお弁当がカンヅメに効果があるのか。
ふふんと自慢げにブランは笑った。
「すごいんだよ、蘇芳君の料理は。ロゼも食べればわかると思う」
「わたくしは一般的な食品は食べられません。というか、ブラン様だって食べれないはずでは?」
「私は食べれるよ。生命維持に必要はないってだけ」
「必要はないのですか」
だったら食べる意味はないのでは、とロゼは思う。魔力で体を維持できるブランは食事の必要がないが、食べることができる。その食事にあまり意味はないのに、蘇芳の作る料理を必要とする。
「いやほんとね、ひらめくんだよ。食べるとひらめくの。あ、この間は見ただけでひらめいたし」
「普通の料理ですよね?」
「うん。コウの料理が多いかな。もともと料理上手なんだよ。未来の奥さんのために練習してたそうだから」
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