第31話 魔女の年齢


「これは取引だよ。私達は蘇芳君を引き取る事で『鬼族が魔王軍に協力した』という前例を作った。魔王軍に参加しない鬼族だけど、その前例は大きいんじゃない?」

「……まさか、ブラン様はそこまで考えて……!?」


気だるげに語られる魔王らしい魔王の言葉にとくんとロゼの胸は高鳴る。確かにこの前例は後に大きな結果を残すことになるだろう。こういう所があるから自分はロゼを慕っているのだと思う。


「ううん、ちょっと言ってみただけー」


ロゼは力が抜けた。しかしこの魔王陛下は未だに読めないところがある。実際前例については考えていただろうし、蘇芳と鬼族について考えなかったはずがない。なのにわざと子供っぽく振るまって、周囲を試しているかのようだ。


「まぁね、私は蘇芳君とは付き合い長いから。十年くらいかな。魔王就任してすぐ視察でコウを訪問した時、九歳のあの子に出会って、魔力のこもった鏡を渡して、連絡取り合ってたの」


ブランはドレスの胸元から小さな鏡を取り出す。その鏡は魔力がこもっていて、同じ鏡を持つものと距離が離れていても連絡が取れるようになっていた。それと同じような鏡を九歳の蘇芳に預け、今も連絡ヲ取り合っている。


「十年前と言うと、貴方が七十五歳の頃ですか」

「やだっ、やめてよ年の話は。魔物は年齢感覚がおかしいんだからっ。私は魔女だから成長遅くて老化しないだけなんだからっ」


現在八十五歳の魔王は身をすくめてロゼから年齢の話を止めさせた。どうやら鬼族の見た目と年齢は人間と変わらない。しかしブランなど体内に魔力を多く持つ種族は魔力の影響か成長が遅く老化も遅い。顔つき幼く女性的な体つきをした彼女の年齢は、人間で言うならば成人したかしてないかの辺りだろう。


「まぁ、年齢についてはわたくしも六十五歳の頃でしたね。つまりわたくしは現在七十五歳ですが、そこまで恥じることではないのでは?」

「人間からしてみたら高齢者で通じるような年齢だからいやなの。これが二百歳とか千歳超えてるならそういうものだと思うのに」

「わたくしからしてみれば二百歳の方が加齢臭しそうだとは思いますが」


その辺りは長命な種族の考え方なのだろう。しかし人間の考え方で言えば五十過ぎれば老人だが百歳過ぎれば神秘的に思えてしまう。それを知っているブランは年齢の話をしたくない。とくに人間に近い年のとり方をする蘇芳には。


「……話戻そ。とにかく私は鏡で蘇芳君と連絡取り合ってたの。あの子が声変わりした瞬間も知ってるんだから」

「なるほど、あの馬の骨はブラン様の弟のようなものなのですね」

「私の弟だって言うのなら馬の骨はやめない?」

「しかしこれから鬼族の当主となるという馬の骨が、どうして国外の魔王と連絡を取り合っていたのでしょう。正式な交流ではないのでしょう?」


蘇芳を馬の骨と称したまま、ロゼは質問した。国外の魔族と距離を置いて人間との共存を選んだのがコウの鬼族だ。

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