第29話 ブランとロゼ

東のコウ出身でこの辺りに来る商人といえば、タヌキとキツネがやってるタヌキツネットだろうか。彼らは人に化け商魂たくましく金儲けをしている。珍しいものから良心的な価格のものまで、ニーズに合わせた仕事をしているはずだ。


「あの、私、お金とかあんまり持ってなくて。コウの国の商人って、安いものを嫌な顔せず売ってくれるから、ずっとそのノリが気になってたのよ。高くないのなら買ってみようかしら」

「あぁ、そうするといい。気にいってくれるといいと思う」


働き者でメイド服を着た吸血鬼の理由がようやくわかった。彼女は貧しいから魔王陛下の侍女仕事をしていたのだろう。はきはきしたこの吸血鬼はいかにもあの魔王陛下が気に入りそうだ。






■■■





魔王陛下、ブランヴァイスは机につっぷしていた。


「もう無理、もうない、もうアイデア湧かない……」


愚痴を繰り返すがいつもの事だ。薄明の城の謁見の間という、日当たりのいい部屋に机と椅子を運んだものの、彼女は机の木目しか見ていない。周囲にはくしゃくしゃに丸められた紙が落ちていた。それらはボツになった魔物案だ。侍女が控えているためすぐさま片付けられてもおかしくはないが、『やっぱりこのアイデア使う!』となった時のため一定まで放置している。


「ブランヴァイス様はいつもそうおっしゃいますが、なんだかんだで新種を創っているではありませんか」


侍女、ロゼが言った。その顔は上品な微笑みを作り、肩につかないよう切りそろえられた髪がさらりと揺れる。どこかの姫のような華奢な体なのにメイド服をまとっている。相変わらず吸血鬼らしい美しい侍女ではあるが、侍女というのがブランには不満だった。


「ロゼはさぁ、もっと私には友達みたいにしてよー。リラックスできないとアイデア浮かばないんだからね」

「友達みたいと言われましても。わたくしは吸血鬼で、吸血鬼とは尽くす種族なのです。侍女以外にはなれません。お友達ごっこなら東から来た鬼とでもなさればよろしいかと」

「ロゼのそういう遠慮ない所は好きなんだけどねぇ」


温度差の激しい二人だった。ブランはリラックスのため自然な対応を侍女にも求める。しかしロゼは侍女であるが故、言葉はそれらしいが遠慮なく不快について口にする。

そしてロゼは蘇芳を嫌っていた。


「ていうかロゼ。私は貴方に蘇芳君の案内役をお願いしたはずなんだけど、どうしてまだここにいるのかな?」

「東の鬼など待たせておけばいいでしょう。わたくし、日の光が苦手なので夜になったら参りますね」

「日光はわりと大丈夫なくせに何言ってるの」


今この時もロゼは窓から差し込む日の光を浴びて仕事用の笑顔だ。確かに吸血鬼は夜型、日の光など浴びたことのないような白い肌をしている。しかしそれは日の光で溶けるようなレベルではない。『なんか嫌だな』程度に日の光を嫌っている。現にここにいる吸血鬼は皆地下にいて、今の時間は眠っているらしい。そして夜になってから働き出す。血を吸いに行くものもいれば、あまりいない主、魔王のために城の管理をするものもいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る