第28話 裏口


城の正規のルートというのは罠が多く警備もしっかりとしているものだ。わざわざ見ておかなくてもいい。

しかし裏口はそうでもない。もし人間がそこに気付いて入り込んだ時、しっかり侵入を防げるかどうかを確認したほうがいいだろう。場合によってはその裏口は塞いだ方がいいかもしれない。


「この木をよじ登って、二階の窓から入るの。できる?」

「木登りか」


コーラルはしっかりとした枝のついた木を指さした。そして見本としてその木に登る。

まずは一番太い枝に両手でぶら下がり、反動をつけてその枝の上に立つ。それから枝を足場にあがり、窓枠に手を伸ばす。窓には鍵も鉄格子もなく、そこを開けて侵入する。

かなりアクロバットな方法だ。それをメイド服で、スカートを翻すことなくやっている。かなり運動神経がいいのだろうと蘇芳は判断した。


「では俺も登ろう。撫子、荷物をしっかり抱えてくれ」

「はい」


撫子は両手で風呂敷包みを抱え込む。そんな撫子を蘇芳は片手で持ち上げ、もう片方の手で枝を掴み、幹を足場に枝に乗り、枝を強く蹴り窓に移った。


コーラルはぽかんとその一連の動きを見ていた。


「あ、貴方達、すごく身体能力がいいのね……」

「いや、まだまだだ」

「東の人ってすぐ謙遜するわよね。それはもちろんいいところだけど、もう少し誇ってもいいんじゃない?」


西代表として、コーラルは二人を褒めてから東の住人に対する感想を述べた。

コウを中心とした東から来た者はとても謙虚だ。すごいことをさらりとこなし、それを褒められても『自分はまだまだ』と返す。

これが西の者ならすごいことをこなして大げさなまでに主張する。そういった性格の違いはどこにでもあるものだ。


「君は、東の知り合いがいるのか?」

「ええ、よく来る商人でね。いつも変わったものを売ってる人なの。この間なんて真っ黒な紙を売ってたわ」

「真っ黒な紙? それはなにも書けなさそうだな」

「あ、いえ、違ったかも。紙じゃないわね、食べ物だって言ってたわ。あんな紙みたいなのが食べれるわけないって思ったけど」

「あぁ、それは海苔だな」

「ノリ?」

「海藻を乾かしたものだ。パリパリして風味があっておいしい。米と食べると最高だ」

「ふぅん」


コーラルは興味なさげだった。そうは見えないが彼女が吸血鬼だからだろう。吸血鬼は食べ物を食べないのかもしれない。しかもよその国でポピュラーな食材について語られてもぴんと来ないはずだ。

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