第27話 聞けない種族

 

「もしも撫子が『お前はツノが小さいが本当に鬼なのか?』と聞かれたらどう思う?」

「それは……怒ると思います。ツノの大きい方が鬼らしいなんて時代遅れな考えで、そんな考え方で私という鬼を型にはめるというのは腹立たしいです」

「だろう? 彼女が吸血鬼かどうかを問うということは、そういうことじゃないか?」


蘇芳と撫子はコーラルの後ろ姿を改めて見た。長身ですっきりしたまとめ髪の似合う、健康的な美しさを持つ少女だ。手足は長くしなやかに筋肉がついていて、日に焼けている。

その容姿はあまりにも吸血鬼のイメージとはかけ離れている。

蘇芳達の思う吸血鬼とは、日の下に出れないため色白く、眷属に雑用をやらせるためあまり筋肉は発達していない。退廃的な雰囲気の貴族のようなイメージだ。

しかしそれらは蘇芳のイメージにすぎない。彼らだって鬼で額にはツノがあるが小さく前髪に隠れてしまう。鬼だってそうなのだから健康的ではつらつとした吸血鬼がいるのかもしれない。そもそも彼らは吸血鬼を見たことがないのだ。

それに前回ボサボサ頭とダルダル部屋着のサキュバスを見た。種族イメージを持ちすぎてはいけない。


「種族を問うという事は場合によっては必要だが、疑いとなり失礼な事となる場合もある。確認はしないでおこう」

「しかし、間違いだったらどうするのです」

「魔王陛下は『案内人は吸血鬼でメイド服を着ている』と言っていた。わざわざ確認せずとも、彼女が案内人で間違いないだろう」


魔王陛下、ブランヴァイスがそう言っていたのだ。なので先導するメイド服の少女が案内役で間違いがない。まさか人間の冒険者がメイド服を着てダンジョンで鬼を案内しようとするはずがない。

だから蘇芳はわざわざ確認なんてしなかった。


「ねぇ、ちゃんとついて来てる?」


小言でひそひそしているだけの二人を不審に思ったのか、コーラルは振り向いて尋ねる。


「すまない。何の話だったか?」

「こっちにとっておきの裏口があるの。そこから入る事になるけれど、問題ないわよね?」

「とっておき?」


そういえば、現在はコーラルの案内により城門を通り過ぎて裏側へと向かっている。なぜ裏口から入るのか、撫子にはわからない。こちらは視察も兼ねているので正規ルートに入り、侵入者がどうトラップにひっかかるのかを確認したいのだが。


「なぜ裏口を? 正規の入り口から入ればよいでしょう」

「正規の入り口って、そっちから入ってどうするのよ。何か調べることでもあるの?」


蘇芳達は来客扱いのはずだ。なぜ裏口から通されなければならないと撫子は疑問に思うが、コーラルはそれでも裏口から入るつもりらしい。しかし蘇芳はコーラルに賛成だった。


「あぁ、ルートはお任せする。裏口というのも見ておきたいからな」


撫子を止めて、蘇芳は裏口を選んだ。というのも、それがダンジョン視察として有効だからだ。

ただ物資を運ぶだけが蘇芳の仕事ではない。その道中ダンジョン全てを視察し、その弱点を見抜かなくてはならない。

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