第25話 研究者二人
給仕など別の仕事をする方が安全で効率がいいのではないか。そう思わない事もない。しかし将来を考えるとそれではいけない。弟達だっていつか働いてくれるだろうが、働いてばかりで勉強を疎かにされては困る。教育を受けていないといい仕事は回ってこない。そうして悪循環でずっと貧乏になってしまう。
それを避けるにはダンジョンで一攫千金を得て、弟達が勉強に専念できるようにしなくてはならなかった。
依頼人とはこれからすぐ待ち合わせる事になる。コーラルはそのままダンジョンへと向かった。
薄明の城はギルドのある街から三十分ほど歩いた先にある。街と距離は近いが、魔物達が襲撃に来ることはない。どうやらそこに住む魔物は吸血鬼が多いらしい。吸血鬼は人間を利用する魔物であるため、わざわざ人間の住処を無差別に攻撃しないようだ。
ちなみにこの城に住む吸血鬼というのは女性はメイド服、男性は執事服を着ているらしい。だからそれに紛れるため、コーラルはあえてメイド服を着ているのだった
歩いている途中、コーラルは空腹を覚えた。酒場で夜中まで働き、仮眠をとって水と薄いパンを朝食にしてギルドに向かい、今ダンジョンに行こうとしている。空腹は辛いが動けないほどではない。
城が近付いて鬱蒼とした森の中を伺いながら歩く。城を覆う塀に辿りついたが依頼人はまだ来ていないようだ。
依頼人は魔物の研究者らしい。そういえば、ここより西の塔では新種の魔物の雛が現れたとコーラルも聞いたことがある。いくら研究しても何もわからない雛と話題になっていた。そんな動きがあったためだろう。この薄明の城でも新種がいるのではないかと研究者が立ち上がったのかもしれない。
魔物の研究こそ人間達にとって一番重要な事だ。魔物の生態を知ればその種を避ける方法がわかる。倒す方法もわかる。そうなればいつか強大な魔王軍だって倒せて、平和な人間だけの世界が作れるかもしれない。
そうなれば、研究者の手助けをするというのはコーラルにとって重要な仕事と言える。
「君が案内の者だろうか」
気配なく声をかけられて、コーラルは普段より遅れて反応した。
いつの間にか彼女の視界に男が居た。もさりとした髪に、只者でない雰囲気の目をした男だ。大きな布で包むような衣服はコウの民の基本的な服装である着物というものだろう。間違いなくコウ出身の研究者だ。ただし二人組の男だと聞いていたのだが、
「…………」
もさりとした前髪の男は身長が女子にしては長身なコーラルより高く、間違いなく男だろう。しかしもう一人、その男の影のように存在する人物の性別がわからない。
コーラルより小さく華奢な体に、つややかな髪のサイドポニーテール。無表情気味だが人形のように整った顔。何も知らないコーラルが見たのなら女の子だと思う。しかしギルドからは男二人と聞いている。もしかしたらまだ成長期を迎えていない少年かもしれない。胸があれば女性とわかるのだが、その者の胸はあまり目立たないし、着物のせいでわかりにくい。
『男二人と聞いていたけど、そちらは女の子なの?』と言いたくなる口をコーラルは押さえた。性別についてとやかく言うことは失礼だ。コーラルも昔は背だけが伸びて胸がなく力自慢だったため、『男みたい』と言われて傷付いたのだ。こんな事を聞けば、目の前の小柄な人がどちらの性であっても傷つけてしまう。それに研究者という性差はほぼないような職業で、わざわざ性別を問うのも失礼な気がする。
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