薄明の城
第23話 兼業冒険者コーラル
ダンジョン攻略。それは人間達にとって一攫千金の夢である。
長い歴史の中、人間と魔物は戦い続けていた。そんな中、魔物達はダンジョンという拠点を中心に生息することに気付く。どうやらダンジョンとは魔力が多く存在し魔物にとって戦いやすく居心地のいい場所であるらしい。
さらに魔石や魔道具など、人間にとって便利な物が生まれることに気付いた。魔石があれば人間であっても水や火を扱う術が使える。魔道具はただの道具に奇跡のような能力が備わっている。なのでそれらはとても高く売れ、いつからか塔の攻略を目指す職業、冒険者が生まれたのだった。
ダンジョンでの戦利品は見つけた人のもの。そしてダンジョンは制圧してから得られた利益はその制圧者のものとなる。
しかしそこまでうまい話はなく、ダンジョン攻略は自己責任だ。もし危険なダンジョンに冒険者が迷い込んだとしても、ほとんどの場合は誰も助けには行かない。死んだとしても何の保証がない。一攫千金の機会とはいえ、それなりの危険はあるのだった。
コーラルはその冒険者の端くれであり、酒場で働くメイドでもあった。
「あたしに案内の仕事が来ているの?」
「ああ、東の研究者らしくてな」
コーラルはメイド服のままギルドを訪れていた。給仕の仕事終わりだ。しっかりまとめられた髪に優雅なメイド服というのはむさ苦しい冒険者の集まりの中浮いているが、彼女は貧しくろくに服を持っていない。一番丈夫な服といえば制服だ。もしかしたら相手の油断を誘うかもしれない。それに彼女のこれから向かう場所からしてみればメイド服の方が都合いい。
「薄明の城。そこに魔物の新種がいないかどうかを調べる研究者の案内と護衛が今回の依頼だ」
ギルドの受付の太った中年男性は面倒そうに答えた。ギルドはダンジョン攻略や周辺の魔物退治をする冒険者をサポートする施設である。
まず冒険者はギルドに登録し、認めてもらう。ダンジョン攻略の場合、成功すれば戦利品はその冒険者のものになるよう手続きをする。失敗した場合は家族に死亡したなどという通知を送る。
その他にもダンジョンでしか手に入らないものを欲しがる人のため依頼を受け冒険者に紹介したり、魔物の目撃情報から討伐報酬を出したり、仲間を求める冒険者同士を仲介する。
もちろんお金は取る。このコーラルに舞い込んだ依頼の場合、報酬の一割をコーラルが支払うことになる。報酬自体が少ないため受付は乗り気とは言えない。
すっかり成功したかのような勝ち気な声でコーラルは答える。
「薄明の城ならよく行っているから案内ならできると思うわ。請けます」
「あぁ、そうしてくれると助かるね。こう言っちゃアレだが、これはあんた向けの依頼だ。戦わず、逃げるの優先なんだから」
受付からそう言われて、コーラルは情けない冒険者と言われている気がした。しかし実際そうだ。彼女は兼業冒険者とはいえ戦うことは得意としない。しかし薄明の城を一番よく知るのは彼女だ。構造や罠の位置は全て頭の中に入っていて、魔物への対応もよくわかっている。
そして万が一の事があっても逃げ足が早い。
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