第21話 決定

蘇芳が一番このダンジョンに必要だと思うのは即戦力だ。この雛鳥も少しなら侵入者対策になるかもしれないが、即戦力ではない。


「こんなの考えなしに作ってどうするんだよ……」

「殻を被せればまた卵の状態に戻って親認定リセットされるよ」

「そうじゃなくてだな、」


正直に批判できる関係とはいえ、どう言えばブランが考えを改めてくれるのか蘇芳にはわからない。即戦力を作ってほしいと言っても、魔物を作ったことのない蘇芳には新たな生物を作り出す苦労はわからない。自分にわからない事なので他人に強くは言えない。なのでダメ出しも緩む。


「でもおにーさん、これ役立つと思うっすよ」


悩んでいる蘇芳に声をかけたのは、嫌がる雛鳥を持ち上げて撫で回しているクララだった。


「ダンジョン内で新種の卵があったら気になると思うっす。それがどんな生き物に成長するのか調べたくなって持って帰るかもー」

「あ……」

「侵入者が帰ってくれるのが一番いい、って、おにーさんも言ってたっすね?」


クララは今までの会話をまとめた。

人間は魔石を使わない限り、とくに突出した力を持たない。しかし団結力により敵対する魔物達と戦えてきた。

そんな人間達からからしてみれば、この卵は総力をあげて研究したいはずだ。新種で、いつか自分達に牙を向けるかもしれないのだから。まさか研究対象にした雛を持ったままダンジョン攻略をするはずがない。卵や雛を拾った時点で侵入者は帰る。

そして戦わないという選択肢を選んだ場合がいいこともある。あの強欲な勇者一行の時のように、人間を倒せば人間達が報復として全力でこのダンジョンを攻略しにかかるかもしれない。

好戦的でないサキュバスはインプリッグがいてくれた方がいいと考える。


「あの、私も……風呂敷を持っていた時、いつもみたいに動けなくて不安でした。この雛が付いてくる時でもそんな効果があるのではないでしょうか」


撫子もインプリッグを認める。何が入ってるかは知らないが大事な荷物を運ぶ、というのは撫子の行動を制限した。普段なら四人の人間くらいは倒すか逃げるかできたが、大事な荷物のせいでそれができなかった。人間もきっと雛にまとわりつかれるとそうなのでは、と撫子は考える。


そして蘇芳も、撫子の言うことはよくわかった。故郷を逃げ出してから、多分今も、彼は撫子の事で責任を感じている。撫子が無事過ごせるようにしないと、撫子を危険な目に合わせてはいけない、故郷にいるときよりずっと幸せにしなくては。そんな事を彼はずっと考えていた。無茶はできないし、誰にも不安を相談できない。自分より弱く大切なものを抱えるとはこういうことなのか。魔王立研究所やブランの発言にも一理あるように感じた。

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